
住宅型有料老人ホーム等での「囲い込み」問題などにどう対処するか。あり方検討会が検討の方向性を示し、介護保険法や老人福祉法の大幅な改正も視野に入ってきました。ケアマネの独立性担保の議論も出ている中、具体的にどのような対策が想定されるでしょうか。
ケアマネの独立性をどう担保するか?
住宅型有料ホーム等での「囲い込み」問題をめぐり、自立支援のためのケアマネジメントを阻害する圧力がかからない環境整備が必要──という意見が出ています。これを進めるうえで、「ケアマネの独立性の担保」をどう図るかがポイントとされています。
「独立性」の担保に向けては、たとえばホームに併設・隣接する居宅介護支援事業所のあり方も焦点となります。併設・隣接では、ホームと同一・関連法人というパターンだけでなく、別法人でも一定の提携関係にあるという可能性も視野に入れる必要があるでしょう。
ちなみに厚労省が示すデータでは、住宅型有料ホームのうち、居宅介護支援事業所が併設・隣接しているケースは22.6%。同調査では「無回答」が26.7%もあるので、実際には3割を超えている可能性もあります。
仮に3割とした場合、住宅型有料ホームの施設数は2023年時点で約12,000か所なので、併設・隣接の居宅介護支援事業所数は約3600か所。居宅介護支援の請求事業所数は全体で約43,000ですから、単純計算では約8%が該当することになります。併設・隣接でなくても、同一法人や一定の提携関係があるケースを含めれば1割に達するかもしれません。
2024年度に導入された5%減算の効果
「ケアマネの独立性の担保」については、この1割前後が特に焦点となります。何より難しいのは、仮に同一・提携法人とした場合、現場のケアマネも「組織の一員」であるがゆえに、「囲い込み」につながる組織の論理を完全に拒絶できるかという点でしょう。
国としては、2024年度改定で、居宅介護支援に「同一建物に居住する利用者へのケアマネジメント」に5%減算を導入しました。「囲い込み」につながりがちな「同一建物内でのケアマネジメント」という「形態」に一種のペナルティを課すことで、ケアマネジメントの公正中立を図ろうしたことになります。
しかし、利用者の居住地への移動コストなどがかかりにくいという点では、5%減算がどこまで公正中立につながるかは不透明です。自社および提携するサービスへの誘導を含め、ホーム側としては十分に採算が取れるという見立てが生じつつあります。そうなると、ケアマネが「組織の論理」に従わざるを得ない環境もなかなか打開できません。
併設・隣接ではない提携モデルも増える⁉
もちろん、報酬上で(他サービスも含めた)減算をさらにきつくする方法も想定されます。ただし、この場合「併設・隣接」もしくは「自社でのサービス提供」は減るかもしれませんが、地域の中での「他法人との提携」という動きが今度は増える可能性があります。
たとえば、住宅型有料ホームの近隣に複数の小規模事業者を誘致し、減算にかからないラインで利用者を安定的に紹介するというやり方も想定されます。ホームで必要な人材を採用し、人材不足の事業者にあっせんしながら提携関係を築くこともあるかもしれません。
そうなると、地域によってはただでさえサービス資源が不足する中、住宅型有料ホームの入居者以外にますますサービスが行き届かなくなる恐れも生じます。報酬上での規制が、別の問題を引き起こしかねないわけです。
介護サービス相談員事業は機能するか?
結局は、個々のケアマネジメントについて、利用者の自立支援に資する独立性を担保し、何より利用者の選択権を保障するという制度のあり方に踏み込まなければ、根本的な問題は解決しないことになります。
それを、ケアマネの倫理強化だけでまかなうのは困難でしょう。先に述べたように、ホームとの同一法人だけでなく、何らかの提携関係が築かれた場合も、そこでもホーム側の要望等に「忖度」が生じやすくなるからです。
これを防ぐうえで、国が推進している介護サービス相談員派遣事業なども注目されます。ただし、本来ならその相談員とケアマネがチームを組んで「利用者の権利擁護」の機能を発揮してこその制度とも言えます。そのケアマネの社会的地位がきちんと確立されていなければ、相談員機能にも限界が生じがちです。
その社会的地位の保障のためには、ケアマネの処遇改善はもちろん、事業所が独立をきちんと保てるだけの基本報酬の設定も必要です。そのうえで、ホーム側との関係をめぐる「居宅介護支援事業所向けの専用相談窓口」を全市町村内に設置し、相談のつどホームへの強い指導を行なう権限も求められます。
医療機関での「ケアマネ選択支援」も課題
なお、利用者が居宅時の担当ケアマネとの関係を継続できるような施策も今後は議論されることになるでしょう。一方で、利用者が入院を経てホームに入居した時点で、新規にケアマネが担当につくケースも想定されます。
その点では、入院中から「利用者の意思に沿ったケアマネジメント」につなげられるよう、医療機関側の取組みも不可欠です。医療機関ではACPの取組みなどが進んでいますが、ここで中立性を保持した「ケアマネ選択」の支援も明確にしたいものです。
利用者の尊厳とケアマネの職業倫理、それらを継続的に保障することが、「環境整備」をめぐる主要テーマと位置づけたいものです。
【関連リンク】
老人ホームの「囲い込み」対策で方向性 厚労省 入居者の選択権やケアマネの独立性を重視 - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。