改定後の介護給付費動向で浮かぶ、 介護保険制度が直面する “変容”

2024年5月から2025年4月までの介護給付費実態統計の結果が公表されました。1年通しての動向としては、2024年度改定以降で初の統計となります。受給者数や費用額累計などのデータから、先の改定が制度利用にどのような影響をおよぼしているか注目します。

居宅系の一部サービスで「利用」にブレーキ

ここ数年の推移を見ると、コロナ禍で特に通所系や短期入所系で受給者の落ち込む様子が見られましたが、その後の2022・2023年度には回復傾向にありました。それが、今年度の統計では、再び一部サービスでの受給者等の落ち込み・伸び悩みが見られます。

たとえば通所介護では、2023年度に実受給者数(名寄せした受給者数)で対前年度比2.2%、累計受給者数で2.4%の伸びとなっていました。これが、今統計(2024年度)では、前者で1.1%、後者で1.3%と伸び率が半減しています。地域密着型の通所介護では、実受給者数の伸びが1.8%から0.6%へと3分の1にまでブレーキがかかっています。

短期入所系に至っては、生活介護、療養介護あわせて累計受給者が△0.4%とマイナスに転じています。伸び率がマイナスとなったのは、2020年度からの新型コロナの感染拡大以来となります。家族介護者の高齢化やワーキングケアラーの増大が進む中、レスパイトの要となる短期入所が「使われない」という状況は、制度利用のひずみを感じさせます。

通所介護・短期入所系の受給者停滞の背景

こうした受給者数の減速状況を見ると、通所介護や短期入所系の「使い勝手」が悪くなっている──という仮説が浮かびます。

物価高騰などのあおりを受けての利用控えや資源の減少もあるでしょうが、それ以前に従事者の不足により、利用者の受入れや利用時間帯が絞られていることが想定されます。

もっとも、資源の縮小が特に叫ばれる訪問介護は、対前年度より受給者数の伸びは大きくなりました(類型受給者数で1.1%⇒1.4%、実受給者数で1.0%⇒1.3%)。これについては、「通所介護や短期入所系の使いづらさを訪問介護でカバーしている」あるいは「高齢者住まい等への短期居住で、併設する訪問介護を利用している」などの状況が考えられます。

このあたりはさらなる分析が必要ですが、仮に通所や短期入所のニーズを一部の訪問介護(高齢者住まい等の併設スタイル)で代替えする状況が生じているとします。そうなると、利用者の意向に沿った自立支援が進んでいるか、利用者の意思決定に制限が生じていないかという点に注意しなければなりません。

一方で、伸びが目立つのは訪問看護など

居宅介護サービスの「使い勝手」に懸念が生じている一方で、受給者数が伸びているサービスもあります。特に伸びが目立つのは、(コロナ禍も含めた)近年の傾向ですが、訪問看護や居宅療養管理指導などの医療・看護系サービスです。訪問看護で累計受給者数6.6%、実受給者数で6.1%の伸び。居宅療養管理指導で、前者が7.9%、後者で7.0%。居宅療養管理指導に至っては、初めて実受給者数が訪問介護を逆転しています。

また、(もともとの資源数が少ないのであくまで参考値ですが)定期巡回・随時対応型や看護小規模多機能型も、実受給者数は1割前後の伸びを示しています。

ちなみに、2024年度に介護療養病床が廃止されたために、施設サービスでは介護医療院の伸びが目立ちます。資源数自体はまだ少ないですが、老健や老健が提供する短期入所療養介護で累計受給者が大幅減となる中、将来的に介護医療院が受給者減少をカバーする流れになる可能性は高いかもしれません。

もちろん、重度の要介護者の増加という背景もあるでしょう。一方で、居宅介護サービス資源全体の縮小下において、訪問・通所介護等が担っていた「利用者の健康管理」の部分の受け皿となっていることも考えられます。

介護職が担い切れない部分のタスクシェア?

利用者の重度化防止においては、服薬管理や栄養・水分摂取のコントロール、嚥下状態や皮膚の状況の確認など、専門職の視点によるさまざまなポイントがあります。これらをめぐる最新の知見の修得や対応スキルの向上は、介護職においても年々重視されています。

しかしながら、どんなにスキルが向上しても、現場の従事者不足が進む中では、それを十分に発揮することはできません。そのため、介護職は目前の生活行為の介助等に集中はするものの、そこに付随する利用者の状態観察等(および、気になる点をケアマネや医療・看護職につなぐこと)の余裕はどうしても乏しくなります。こうした部分を医療系サービスでカバーせざるを得ない──という状況が強まっていることも考えられます。

加えて気になるのは、これらチームケアをマネジメントするケアマネも不足傾向にあることです。今統計でも、居宅介護支援の実受給者数の伸びは2年前から半減しました。

これは、居宅サービス利用にかかるハードルが上がっているだけでなく、重度化防止に向けたタスクシェアが強まる中、それをマネジメントできるケアマネの余裕がなくなりつつあるという懸念が高まることも意味します。

やがて介護保険は、医療・看護が司令塔となる「療養保険」の色合いを濃くしていくのではないか。そんな未来も垣間見えます。

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令和6年度 介護給付費等実態統計の概況(令和6年5月審査分~令和7年4月審査分)|厚生労働省

厚労省、重度者向けホームの規制を強化 サービスの質確保へ「登録制」導入 - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。