介護保険をめぐる「将来世代へのツケ」その解消はどうやって図られるべき?

2025年末、介護保険部会で制度見直しに関する意見の取りまとめが行われました。2割負担者の範囲拡大については2027年度までに結論が持ち越されるなど、多くのテーマ議論が紛糾、こうした中で常に浮上するのが「将来世代へのツケ」という考え方です。

2040年度までに介護保険料負担は1.5倍増へ

社会保障費のうち、介護費用は2025年度時点で約14.6兆円、医療費の約30%、年金の約24%にとどまります。ただし、近年における費用の伸び率だけを見ると、対2018年度との比較で医療が24%、年金が5.6%に対し、介護は36%と突出しています。

そして、85歳以上人口が1000万人に達すると推計される2040年では、対2025年度との比較で介護費用の伸び率は約40%へと膨張します。その費用額は、医療費の約36%、年金費用の約33%にまで達するとされます。社会保障費のうち、特に介護費用の占める比重はますます右肩上がりとなるわけです。

当然ながら、現役世代(40~64歳)の介護保険にかかる保険料負担も大きくなります。社会保険料の内訳で見ると、2040年度の介護保険料は対2025年度比で約57%増に(協会けんぽのデータより)。医療保険が約18%増、保険料率が固定化された年金保険が0%増なので、介護保険料がいかに現役世代に重くのしかかりつつあるかが分かります。

利用者負担増も実は「将来世代へのツケ」!?

このように、介護保険が現役世代に与える影響は、他の社会保障制度をしのぐ形で大きくなっていきます。費用面から見た場合の「将来世代へのツケ」をめぐる議論は、特に介護保険においてますます高まっていくでしょう。

この負担軽減に向け、利用者負担の増加や、給付の縮減(一部サービスを給付から外す)という議論は今後も前面に出やすくなります。

ただし、ここでの「負担」はあくまで「保険料」に関しての話です。現行の介護保険における被保険者は「40歳以上」ですから、保険料を負担しつつ、一方で(自身の親等の介護に直面するというケースも含め)サービス利用の当事者となる可能性もあります。

その際、所得に比して負担割合が過度に高まったり、保険給付の範囲が狭まる(場合によっては自費サービスや給付外負担も増える)となれば、これも現役世代には大きな「負担」となりかねません。若い世代がこうした負担を見すえなければならないことも、もう一極の「将来世代へのツケ」となるわけです。

国民の幸福度を高めることにこそ着地点が

将来的に膨らみゆく「保険料負担」を「ツケ」と見るのか。もしくは、自分あるいは自身の親等のための「必要なサービスを十分に使えないこと」が「ツケ」となるのか──ここにその時々の物価や景気等の社会状況を反映させつつ、大きな着地点を見すえていくことが不可欠です。この場合の「着地点」とは、すべての国民が将来の安心を確保し、幸福度を高めていくことに他なりません。

仮に「保険料負担の軽減」だけに焦点を絞ったとして、利用料の高騰や給付範囲の削減によって「いざという時に必要なサービスを使えない」という事態に陥る恐れがあります。

そうなれば、「真の安心が得られない介護保険は役に立たない」という制度不信が高まりかねません。「そんな制度のために保険料を支払う必要があるのか」という疑問が大きくなれば、さらに保険料の軽減を求める世論が大きくなります。それがサービスの使い勝手をいっそう悪くし、制度への不信感がさらに高まるという「悪循環」につながっていきます。

よく指摘されるのが、「医療などと比べ、介護はいつまで続くか分からない」という点です。そのタイムスパンの長さに、認知症による対応負担なども加われば、家族の体力・気力およびその人生設計に多大な影響を与えます。そこから生じるのは、本人・家族を含めた心身および経済状態の悪化、そして虐待や介護倒れという複合的な課題への波及です。

公費引上げ論も「ツケ」となるのか否か?

そもそも介護保険制度は、高齢者の自立支援や尊厳確保に加え、家族をはじめ世帯全体の介護負担の軽減を目指して誕生したしくみです。介護保険創設の議論が始まったのは、バブル経済の崩壊から間もない頃です。

世帯収入が落ち込みやすい状況下で、一律1割(発足当初)負担で「仕事と介護の両立も図れる」しくみは、当時の国民にとって極めて利便性の高い制度だったと言えます。

もちろん、その利便性の高さゆえに短期間で費用がかさみ、それが保険料の増大に結びついたことは否定できません。しかし逆に言えば、それだけ多くの国民にとって「どうしても必要な制度」だった証とも言えます。

この制度の利便性が損なわれれば、これもやはり「将来世代へのツケ」にならないでしょうか。まずは、「すべての高齢者そして現役世代が負担なく利便性を享受できること」を出発点とし、そのために保険料が高騰するのなら、公費の増大で対応するというのが「国民の幸福追求」の筋道ではないでしょうか。

確かに、公費の増大による借金財政も「将来世代へのツケ」の1つかもしれません。しかし、国民の幸福度に直結する制度を揺るがすこと以上の「ツケ」があるのかどうか。そもそも、今回の介護部会の議論も含め、なぜ公費負担増の論点に踏み込めないのか。年の始めにすべての国民が考えたいテーマです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。