
現在、国会で審議されている介護保険法等の改正案に対し、公益社団法人「認知症の人と家族の会」が、すべての国会議員に向けた緊急要望書を出しました。要望の対象は、今法案に示された「特定地域サービス」と「登録施設介護支援(予防含む)」です。
特定地域サービスと登録施設介護支援
1つめの「特定地域サービス」は、人口減少地域などを「特定地域」と定め(ただし、範囲が広がる可能性あり)、地域の実情に応じた人員配置基準の柔軟化や包括報酬の導入を可能とするものです。また、「特定地域居宅サービス等事業」も設けられ、地域の実情に応じて「給付サービス」を「地域支援事業」で提供できるしくみも示されています。
2つめの「登録施設介護支援」等については、新たに登録制が導入された住宅型有料老人ホームにおいて、居宅介護支援の代わりに提供される新たな相談支援類型です。現状、居宅介護支援に関して利用者負担はありませんが、この新類型に関しては1割の利用者負担が発生するしくみが盛り込まれています。
今回、認知症の人と家族の会が出した要望書では、上記2点について「制度の根幹を揺るがしかねない懸念すべき内容」であるとして、以下を求めています。
(1)「特定地域」を創設し、事業所の介護職員を減らすのではなく、必要な介護職員を確保するための見直しを行なうこと。
(2)どの地域に住んでいても、どんな場所で暮らしていても、全国の(要介護・要支援)認定者に、公平・平等な給付を維持するための見直しを行なうこと。
今法案でも従事者確保にふれてはいるが…
(1)に関して、政府としては、今改正法案で「従事者確保のための協議会を都道府県に設置する」ことや、「従事者確保の施策を講じることを国の責務にした」点を強調するでしょう。しかし、これらは「検討のしくみ」や「国の責務」を明確化したに過ぎず、従事者確保を直接担保するものではありません。
仮に従事者確保を担保するのなら、「従事者の処遇改善策を打ち出すうえで、他産業の平均賃金の伸びを考慮しなければならない」など、(処遇改善加算等の)報酬設定のあり方を具体的に規定することが必要です。
つまり、その時々の財政事情に左右される省令ではなく、国会制定法で施策への「縛り」を強くすることが求められるわけです。
それが整わない状況で、「人員配置基準の緩和」や「(市町村の裁量で報酬が決まる)給付の事業化」を進めることが、果たして安心の介護生活につながるのか──今要望書は、この点を強く指摘しています。
認知症ケアの現場における地域格差の問題
このあたりの懸念は、すべての介護現場において同様でしょう。中でも、認知症ケアの現場に関しては切実といえます。
昨今、認知症のBPSDの悪化を予測し、アドバイスを行なうといったアプリも登場するなど、テクノロジーの進化はめざましいものがあります。しかし、最終的に認知症の人に対応するのは「人」であり、先のようなテクノロジーも(従事者の負担軽減にはつながるものの)人員配置が安定してこそ、その機能を発揮するものといえます。
また、介護報酬上では、認知症ケアにかかる一定の専門研修を修得した人の配置を要件とした加算が設けられています。2024年度改定では、そうした人材を中心に「チーム対応によってBPSDの悪化防止等を図る」という認知症チームケア推進加算も誕生しています。
仮に従事者のすそ野が広がらなければ、地域によって専門研修を修得する人材数も先細ります。「チーム対応」を前提とした加算も、その「チーム」が整わなければ、加算取得ひいてはケアの質の地域格差も生じかねません。
認知症基本法の趣旨にも抵触する恐れ
ちなみに、介護給付費分科会では、チームアプローチでの介入により、「(BPSD25Q 指標による)BPSDの状況」はもちろん、「(Short QOL-D指標による)健康関連QOLの状況」も有意に変化するデータが示されています。
これらポジティブな変化は、突発的な行動等による事故の防止とともに、不適切な身体拘束等の減少にもつながります。それは従事者の負担軽減や心の安定をもたらし、離職を防ぐことにもなるでしょう。これが逆になると、従事者不足の悪循環が加速しかねません。
そのうえで(2)の要望に関してですが、「居宅」にかかるケアマネジメントに、「住まい」の形態で負担の不公平・不平等が生じることで、「生活のしづらさ」を解決するための選択肢に影響をおよぼす可能性も出てきます。
たとえば、在宅でなじみの担当ケアマネがいたとして、登録施設介護支援を行なっていなければ、そこで「なじみの関係」が途切れます。さらに1割負担が生じることで、本人・家族にとって二重の不利益が生じます。
在宅で、認知症により「生活のしづらさ」が少しずつ募る中、選択肢となる住み替えのハードルが高まれば、家族の介護負担も増え、本人と家族の関係性の悪化も懸念されます。
いずれにしても、「認知症になっても安心して地域で暮らし続ける」ための道筋が揺らぐことは、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の趣旨にも抵触しかねません。今回の要望書が指摘する点について、国会全体で改めて深く考える時間が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。