埼玉の事件で募る現場ケアマネの「恐怖」。 国・自治体・業界が早急に命を守る対策を

埼玉県川口市で、ケアマネが訪問先で殺害されるという、痛ましくかつ社会に大きな衝撃を与える事件が発生しました。被疑者(利用者の息子)も死亡し、事件の全容が明らかになるのはまだ先になりそうですが、いずれにせよ、こうした事件が再び起こらないよう、国をあげた早急な対策が求められます。

「正常業務が続けられないトラウマ」も…

今回の事件を受け、日本介護支援専門員協会がいち早く声明を出し、「深い哀悼の意」を示すとともに、専門職としての「善意を踏みにじる行為」として強く非難しました。今回の事件に関し、職能団体としての深い悲しみと強い怒りが前面に押し出されています。

一方で、現場のケアマネが悲しみ・怒りとともに強く感じているのは「恐怖」でしょう。同様の事案に、いつ自分たちが遭遇するかもしれない──この懸念を一刻も早く解消する対策がとられないと、ケアマネや訪問系の介護・従事者の間に「正常業務が続けられないほどのトラウマ」が残りかねません。

日本介護支援専門員協会の今声明では、「訪問時の安全確保に関する実務的な支援」を強化することも明言されています。今後の同協会からの具体策とともに、カスタマーハラスメント防止法の施行を受けた2027年度改定に向けた迅速な提案が期待されるところです。

ちなみに、2日の埼玉県知事の記者会見でも今回の事件が取り上げられました。埼玉県内では、2022年にも訪問診療医などが訪問先で殺傷される事件がありました。県として、介護・障害福祉従事者の暴力・ハラスメント相談センターをすでに開設していますが、現場従事者の命を守るために「さらなる措置を早急に整備すること」を表明しています。

カスハラ等の相談対応強化だけでなく…

なお、その埼玉県知事の記者会見では、国に求めたい施策として、「複数人訪問の際の利用者同意の緩和」や「それに向けた予算措置」なども掲げられました。加えて、いざという時の「警察等との連携強化」のあり方なども、今後は議論されるべき課題となるでしょう。

考えなければならないのは、今回のような事件は氷山の一角に過ぎないのでは…ということです。つまり、水面下ではこうした事件につながりかねないリスクが大きく広がっている可能性も視野に入れなければなりません。

となれば、各自治体レベルおよび事業者レベルでも、「早急にできること」をただちに進める必要があります。カスハラ等にかかる相談対応体制の拡充だけでなく、「暴力等につながる兆候を見逃さないこと」や「いざという時に自身の身体や命を守ること」に焦点を当てた、マニュアル整備や研修実施のあり方などの再検討も求められます。

各種相談現場の危機管理マニュアルも参考に

医療機関や保健センターなどの多くでは、相談対応に際し、事務所内の相談室においてもデスクをはさんだ「相談者」と「対応する専門職」の位置関係などをマニュアル化するケースが見られます。たとえば、いざという時に相談室からすぐ逃げ出せるよう、専門職のすぐ後方に「出口」を備えるなどです。

訪問に際しても、防犯ブザーの携帯をはじめ、危険回避のためのさまざまなマニュアルがあります(支障があるので、ここでは詳細は取り上げません)。地域で多様な相談を受けることが増えている包括(あるいは弁護士事務所)などでは、危機対応マニュアルなどを整備していることもあるので、連携の際に参照させてもらったりするのもいいでしょう。

また、今回の事件では「兆候があったのか」が、現場としても気になるところです。今後の捜査や亡くなったケアマネが所属する事業所からの発信等も待たれますが、さまざまなカスハラ事例をもとに、どのような「兆候」が認められるのかといった分析も必要です。

たとえば、事前に「ハラスメント」につながるまでの事象は認められなくても、後で振り返ると「(利用者・家族側の)ちょっと気になる言動」が浮かんでくることもあります。

一例として、こちらから尋ねていないのに、やたらとお金の話をするなどといったケース。この場合、お金への執着が強く、利用料等でのトラブルの根っこになる可能性があります。

全現場のケアマネへの「心のケア」も必要に

そうした事象を地域の事業者連絡会で持ち寄って分析し、包括や行政にも情報提供します。そのうえで、利用者に向けて求めたいことのリーフレット等による周知に反映してもらいます。これは、カスハラ防止にかかる周知とは別に、利用者に向けた「サービス利用のルール順守のお願い」といったものです。

人の心理として、「自分で口にした言葉」がその人自身の心や感情を刺激し、それが募ることで激しい言動につながることがあります。その点で、「サービス利用時には、(カスハラ事例以外でも)遠慮してもらう言動(アセスメントに必要な情報は除く)」を伝えることは、ある程度の抑止効果が期待できます。

もう1つ考えたいのは、利用者と良好な関係が築けているケースでも、今回の事件がケアマネに大きなトラウマとなり、なじみの利用者の距離感がつかみにくくなることです。事業者としては、すべてのケアマネが精神的な動揺をきたしていることを前提に個別面談などを実施し、外部からカウンセラーなども招きつつ心のケアに取り組みたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。