訪問介護が果たす「重大な役割」

家と車いす

10月から、新たなケアプラン検証のしくみがスタートしました。今回の検証プランの抽出基準の一つに、訪問介護の位置づけ割合が含まれています。その検証に際し、求められることは何でしょうか。地域で求められる「訪問介護の役割」という視点から掘り下げます。

訪問介護の専門性は適正に評価されるか?

今回のケアプラン検証に関して、厚労省は「サービスの利用制限を目的としたものではない」という点を繰り返し強調しています。

しかし、以前のニュース解説でも述べましたが、事業所側で「抽出対象になること」を避けようと、「訪問介護のプランへの位置づけを控える」など「自主規制」が生じる恐れが考えられます。ケアマネ不足の中、プラン検証・提出といった実務にかかる負担が大きくなりがちな中では、なおさらでしょう。

もう一つ気になるのは、地域ケア会議等での検証に際して、かかわる専門職(医療職やリハビリ職など)が「訪問介護の重要性」について、どこまで視野を広く持つことができるかという点です。利用者のADLやIADLの維持・向上や、療養上の課題対応といった限られた視点だけで「訪問介護の専門性」を判断する流れが生じると、かえって利用者の自立支援が損なわれる恐れも生じます。

訪問介護の適正活用が医療給付を抑制する⁉

たとえば、利用者の生活機能の維持・向上を考えるうえで、屋内環境の整備というポイントは欠かせません。身の回りの整理整頓一つとっても、屋内移動における円滑な動線確保は生活機能の状況に大きくかかわります。

一例として、動線上にある物の片付けが滞っていたり、カーペットや床マットなどがちょっとズレているだけで、転倒リスクが高まります。ひとたび転倒により大腿骨頸部骨折などに至れば、そこからの回復に向けては手厚い医療・介護が必要となります。

こうしたリスク管理については、手すり設置などの住宅改修や福祉用具の導入が焦点となりがちです。ただし、安全確保の実を上げるには、訪問介護による日々の動線上のチェックとそれに応じた環境整備も欠かせません。この訪問介護の活用があってこそ、結果的に医療・介護の給付抑制が果たせるわけです。

新型コロナで上昇中⁉「屋内事故」リスク

実は、この屋内での転倒について、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響によるリスクの高まりが指摘されています。新型コロナ禍で外出等による運動機会が減り、筋力低下から歩行時にすり足状態になりやすくなる。あるいは、家で過ごす時間が増えることで屋内が雑然として、動線を妨げるケースが増えることも想定されます。

消費者庁は、10月6日に「転倒予防」に関する一般向けリーフレットと参考資料を公表しました。参考資料によれば、65歳以上の人の死亡ケースについて、2017年以降「転倒・転落・墜落」を原因とするものが8000人台後半で高止まりしています。特に新型コロナの感染が拡大した2020年については、8851人と2014年以降もっとも多くなっています。

この「転倒・転落・墜落」による高齢者の死亡ケースのうち、もっとも多いのが「80歳以上」の「同一平面上の転倒」です。屋内における「転倒・転落・墜落」による死亡ケースの6割近くを占めています。

今こそ評価したい訪問介護によるリスク管理

ちなみに、消費者庁のチラシでも、屋内での転倒要因として、コードの配線、カーペットのめくれ、床に置かれたものによる動線の妨げなどを上げています。いずれも、ケアマネやサービス提供責任者による注意喚起を通じて、現場のホームヘルパーが訪問時にチェックすることで改善が期待されます。

こうした「日常生活上の安全確保」という観点からの訪問介護の必要性が、先のプラン検証できちんと考慮されるでしょうか。

たとえば、訪問介護の必要性の理由の中で、こうした利用者宅の環境面への配慮を記したとします。この点に「ピンとこない」というレベルの専門職が揃ってしまうと、訪問介護のリスク管理の役割が軽視されかねません。

このあたりは、地域のケアマネ連絡会と居宅サービス事業者の連絡会などが連携し、合同の勉強会などを開催するとともに、保険者に要望していくことも必要でしょう。

サ責人材の「離脱」がもたらす危機に注意

一方で、利用者宅の環境リスクを改善するうえでは、訪問介護の運営上の足腰が定まっていることが不可欠です。具体的には、サービス提供責任者(サ責)が利用者宅の動線等を事前にチェックし、現場のヘルパーとしっかり共有を図ること──が前提となります。

ところが、直近の介護労働実態調査(介護労働安定センター)によれば、訪問介護のマネジメント上の要となるサ責の離職率が1年で4ポイント以上も上昇しています。介護従事者全体の離職率が低下傾向にある中では、「異変」とも言える数字です。

ヘルパー不足の中、自ら現場に入ることによる業務量の拡大など、いくつかの要因は考えられます。いずれにしても、利用者宅の環境リスクを量るサ責人材が不足すれば、屋内転倒などの事故は今後もさらに増えかねません。プラン検証を行なう保険者としても、こうした地域の資源状況にも同時に目を凝らしていくことが欠かせないでしょう。

参考資料はこちら>>

毎日が#転倒予防の日~できることから転倒予防の取り組みを行いましょう~(参考資料) (caa.go.jp)

毎日が#転倒予防の日~できることから転倒予防の取り組みを行いましょう~(チラシ) (caa.go.jp)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。