必要なのは過去の処遇改善策の効果検証

イメージ画像

第2次岸田内閣の発足とともに、政権の重点目標の一つである「介護・看護・保育などの現場で働いている人々の収入を増やす」を目指した取組みがスタートしました。施策の方向性を検討するのが、公的価格評価検討委員会です。注目したい点を整理します。

とりあえずは前倒しとなる交付金支給から?

政府は19日にも、経済対策の閣議決定を行なう予定です。そこでは「前倒し」的に、介護従事者等の賃金引上げ策が出されることが見込まれます。公的価格評価検討委員会は始まったばかりなので、恒久的な制度設計に先んじたものとなりますが、介護報酬とは別の交付金のような形が予想されます。

以前のニュース解説でも取り上げましたが、先の国会で野党側から介護・福祉従事者の処遇改善を目的とした「助成金支給」を盛り込んだ法案が出されています。本稿では「政権側が歩み寄れるかどうかがカギ」と述べましたが、この助成金に順じたものとなるとすれば、上記の点はクリアされることになります。

ただし、懸案として残るのが、第一弾でストップしている「新型コロナ禍での慰労金」に該当する対応です。「かかり増し経費」にかかる対応策は打ち出されましたが、新型コロナ対応に尽力した現場への評価を給付という形にできるかどうか──従事者にとっては、これからの政府の施策への信頼を左右するポイントとなるでしょう。先の「前倒し」策に「上乗せ」などで含まれることも考えられますが、いずれにせよ注目ポイントの1つです。

処遇改善加算拡充でも有効求人倍率は高騰

問題は、そこから先です。恒久的な処遇改善策となれば、1つの選択肢として各種処遇改善加算(サービス提供体制強化加算等も含む)の「上乗せ」が想定されます。ただし、前提となる議論が必要です。それは、第1回会合の構成員発言にもある、「処遇改善加算の取組みの効果など」を検証することです。

介護従事者の処遇改善については、これまで交付金対応で1回、介護報酬上の対応で計5回実施されてきました(2009年度のサービス提供体制強化加算等の対応を含む)。今回の検討委員会で示された資料によれば、2009年度以前を0ベースとした場合に月額+75000円の実績を強調しています。

一方、上記の施策が実施された間の介護分野の有効求人倍率は急上昇しています。2010年は1.31と近年でもっとも低い倍率でしたが、処遇改善加算がスタートした2012年度は1.74に。その後、加算が大きく上乗せされた2015年度は2.59→期中改定でさらに拡充された2017年度は3.50→特定処遇改善加算が誕生した2019年度は4.20という具合です。

もちろん、中高年層のリタイアにともなう労働力人口の減少、景気回復による他産業との人材確保競争の激化といった環境要因の影響もあるでしょう。しかし、処遇改善策を強化したタイミングで、皮肉にも有効求人倍率が急上昇している事実は無視できません。

8日の財務省指摘については注釈が必要

どのような背景があるにしろ、上記のような「事実」があるからには、「本当に処遇改善加算は効果があったのか」を最優先で検証していくことは欠かせません。

ちなみに、公的価格評価検討委員会が開催される前日の8日、財務省の財政制度分科会で、社会保障をめぐる議論が行われました。その中で、2012年度に処遇改善交付金を報酬上の加算に組み込んだ点をあげつつ、「事業者の収入になっても必ずしも介護職員の賃金引上げにつながらなかった」と指摘しています。

ただし、この財務省側の指摘をよく見ると、「処遇加算の効果」を直接語ったものではありません。あくまで「2012年度の介護報酬改定全般(この時は交付金の報酬への組み込みを含めて+1.2%)」について、プラス改定で事業所の収入は増えても「介護職員の月収は増えない」ことを指摘しているだけです。

処遇改善加算については、その成立時から「加算の算定額に相当する介護職員の賃金の改善を実施しなければならない」と規定されていました。その後の加算の拡充時に、この点にかかる実務上の規定が厳格化された部分もありますが、基本は変わっていません。

「それにもかかわらず…」として「月収が増えない」という指摘なら注目できますが、前提が混同している点で分析の価値が大きく下がっています。この指摘では、これまでの施策の検証は難しいと言わざるをえません。

「業務負担と給与のバランス」等にも着目を

本来必要なのは、(1)これまでの処遇改善加算の恩恵が「全従事者」に行き渡っているのかどうか、(2)仮に行き渡っているとして「それでも介護業界に人が集まってこない」のはなぜか──を根本から分析することでしょう

たとえば、各種加算要件や基準の増大によって実務が増え、「業務負担と給与のバランス」が取れていない状況も無視できません。業務の効率化のもとでの人員基準の緩和等が進む中、従事者が自身の将来設計を考える余裕がなくなっているのでは…といった視点での検証も必要となってくるでしょう。

公的価格評価検討委員会が、現場従事者の目線に立ちつつ本質的な検証ができるかどうか。これが今後の議論の大きな注目点に他なりません。気になるのは、そうした本質を見すえるうえで必要な業界・職能の関係者が、今検討会に一人も入っていないことです。検証に向けて(現場従事者を含めた)関係者の出席を積極的に求めることも必要でしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。