真の処遇改善に向けて財源確保の行方は?

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介護従事者等の処遇改善のあり方を議論する「公的価格評価検討委員会(以下、検討委員会)」の設置を受け、さまざまな職能・事業者の団体が要望書や意見書を政府に提出しています。第2回の検討委員会では、それらの意見書等の中から主だったものが資料として示されました。各種意見を整理してみます。

多くの介護団体が求める処遇改善の対象拡大

意見書等の内訳は、医療・看護系団体が4、介護系団体が5、障害福祉系団体が4、子ども・子育て・幼児教育系団体が7(複数団体の連名によるものあり)となっています。このうち、現状で「介護保険からの給付」が主財源となる介護従事者の処遇改善について、関連するものをテーマ別に取り上げます。

第1のテーマは、処遇改善の対象となる職種をどこまで広げるかということです。ケアマネの注目は、「居宅介護支援事業所のケアマネや包括の主任ケアマネも対象とするべき」という要望を、日本介護支援専門員協会が出したことでしょう。居宅介護支援事業所のケアマネについては、全国老人福祉施設協議会(以下、老施協)も「介護職員等に準じて支給対象とする」ことを求めています。

ちなみに老施協は、調理員や事務員などをはじめとするその他の職種や、介護保険の対象とならない養護老人ホームやケアハウス等の職員も処遇改善の対象とすることを要望しています。「高齢者介護を支えるのは介護保険対象の事業所・施設だけではない」という点を視野に入れつつ、より規模の大きなすそ野の広がりをテーマとしているわけです。

すそ野拡大の要望で浮上する「別財源」案

こうしたすそ野の広がりを目指した場合、介護保険の財源だけ(つまり、既存の処遇改善加算の上乗せ・拡大で)まかなうことは、保険料や利用者負担の増大という壁がどうしても立ちはだかることになります。

そこでポイントとなるのは、介護報酬とは切り離した形とするのかどうかという点です。これについて明確な提案をしているのが、全国老人保健施設協会(以下、老健協)です。老健協は「大前提」として、既存の2つの処遇改善加算を含めて「介護報酬とは別財源で確保すべきもの」と訴えています。

この「別財源」という考え方について、やや異なった視点で要望を出しているのが、日本医師会です。同会の意見書によれば、「高齢化にともなう社会保障費の伸びに一定のシーリング(上限)がかけられた中で財源をねん出するのではなく、しっかりと別財源を確保すべき」としています。

この場合の「別財源」が具体的に何を指すのかは不明ですが、たとえば以下のようなしくみも想定されます。それは、診療報酬・介護報酬にかかる、国民からの社会保険料を含めた既存の財源構成を見直すことです。介護保険でいえば、各種処遇改善加算について「被保険者の保険料」に影響を与えないよう、特例的な財源をあてることになります。

財務省は依然として「上限」の設定を強調

ただし、上記のような特例的な財源をあてるとなれば、介護保険法(第122条など)を改正して、国の負担にかかる規定を見直す必要があります。あるいは、第1回会合で出ているとおり、医療や障害福祉、子育てなどの他制度との間で「横軸」を通した改革を行なうことも想定されます。この場合、公的価格全般を通じた新法なども必要となるでしょう。

ここまで踏み込むとなれば、極めて大きな改革となります。ただし、国の拠出が大きくなれば、やはり財務省との調整がよりシビアになることは間違いありません。

ちなみに、12月3日に財務省の財政制度等審議会が出した「2022(令和4)年度予算の編成等に関する建議」では、社会保障関係費について「高齢化による増加分」に相当する伸びにおさめる必要を改めて強調しています。また、「その増加分の算出も厳格化・適正化を行なう必要」とクギを刺しています。

そのうえで、介護等の処遇改善の取組みについて、「職員の実際の賃金引上げにつながる実効的なしくみを構築すべき」としています。つまり、処遇改善加算等が「実際の賃金引上げにつながっていない」ことを示唆しつつ、その部分での取組みを求めているわけです。

財源確保が中途半端になった時にどうなる?

上記の財務省側の指摘に関連する事業者団体側の意見として、民間介護事業推進委員会(全国社協・地域福祉推進委員会や日本生活協同組合連合会など7団体で構成)が以下のように訴えています。それは、「雇用主である事業者が職員の処遇改善に向けて常に努力しなければならない旨の法律上の規定を設けるなど、実行上の措置」を求めたものです。

もちろん、「報酬のあり方を抜本的に見直す」ことを前提とした要望です。実際に、介護事業者の中には雇用に関してブラック体質が色濃いケースもあり、そうした中では事業者に対する一定の法規制は必要かもしれません。

注意したいのは、仮に財務省の意向が強く働いて「新たな財源確保」等がうまくいかない場合です。そうなると、加算等の引き上げや対象拡大が中途半端になり、その分「事業者側の努力をうながす」という部分の強化で施策がまとまってしまわないか懸念されます。

年内には、来年10月以降の対応に向けた本予算が組まれます。そこから中長期にわたる政府の考え方を読み解くとともに、2024年度の(介護・医療の)ダブル改定に向けた大きな枠組みについて、現場従事者としてもしっかり目を凝らしたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。