2020年度の高齢者虐待実態調査。 現場も注視したい3つの課題

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高齢者虐待防止法にもとづく、2020(令和2)年度の高齢者虐待実態調査の結果が公表されました。養介護施設従事者等による虐待については、相談・通報件数、虐待判断件数ともに対前年度比で減少。一方、養護者(家族等)による虐待については、いずれも2006年度の調査開始以来最多を記録しています。

新型コロナ禍だけではない構造的な要因も⁉

今回の調査は、新型コロナウイルスの感染拡大下の状況を示したものです。そのため、(1)養介護施設従事者等による虐待については、「家族による面会制限」などの影響で発見・通報に至らないケースが多いのでは…という可能性が指摘されています。一方、(2)養護者による虐待については、介護サービスの休止等によって家族の介護負担などが高まったことが背景にあるという仮説が浮かびます。

いずれにしても、これらの状況を「新型コロナ禍による特異な要因」ととらえてしまうのは危険でしょう。仮に新型コロナ禍が要因であったとしても、それは水面下の構造的な課題を表に押し上げる引き金に過ぎないとも考えられます。大切なのは、今回の調査結果での気になる点に目を凝らし、コロナ禍以前から潜んでいる要因を探り出すことです。

そこで、今調査における細かいデータの中から「気になる3つのポイント」に焦点を当ててみることにしましょう。

訪問介護等の従事者による虐待ケースは増加

まず(1)の養介護施設従事者等による虐待(判断件数)ですが、施設・居住系での虐待は、前年度と比較して軒並み減少しています。先に述べた「家族による面会制限」等が特に影響している部分だと考えられます。

一方で、増えているのが訪問介護や通所介護等。特に訪問介護等は、前年度から10件増となっています。2020年度、訪問介護の類型受給者の伸び率は1%未満。それと比較して、虐待件数5割増は大きな伸びといえます。

訪問系サービスについては、もともと「居宅内」という空間の閉鎖性により、特に一人暮らし等ではサービス状況が第三者の目にふれにくいという事情があります。そのため、訪問系サービスでの虐待ケースは、水面下においてさらに多いことも想定されます。

その点で、表に出ている虐待判断ケースが大きく増えたことは、数字以上に深刻にとらえるべきでしょう。もちろん、水面下の広がりが懸念されるとはいえ判断件数はごくわずかです。しかし、そこに現場が心身ともに追い詰められがちな背景があるとすれば、虐待にかかわらないほとんどのヘルパー等でも、「ちょっとした不注意での事故リスク」などが高まっていると考えなければなりません。

介護職全体は減少だが、介護福祉士が急増

2つめの「気になる点」は、(1)のケースでの「虐待を行なった側(以下、虐待者)」の職種です。虐待ケース総数が前年度より減り、虐待者における介護職全体の数も減っています。ところが、そうした中で逆に虐待者として増えた職種があります。それが、介護福祉士(18人増。割合にして6.4%増)です。

確かに介護職全体に対する介護福祉士の割合は年々増え、母数となるすそ野は広がっています。とはいえ、それなりの経験とキャリアを積み、他の介護職の模範ともなるべき職種による虐待が増えているというのは、やはり深刻にとらえるべき点でしょう。

国は、介護現場におけるキャリアラダー(キャリアアップのための人事制度・能力開発のしくみ)の構築に力を入れています。処遇改善でも、経験を積んだ介護福祉士等に重点化した施策を強化しています。そうした中で、「介護福祉士が虐待者となるケース」が目立ちつつあるのは、「キャリアの方向性およびその評価」の方向性に波紋を投げかけそうです。

ちなみに、市町村が報告している「虐待の発生要因」を見ると、「教育・知識・介護技術等に関する問題」がトップを占めていますが、その数・割合はともに年々減少しています。一方で、「倫理観や理念の欠如」は数・割合ともに年々上昇。今回は虐待総数が減っているにもかかわらず、要因数として伸びています。

これを見ても、介護職のキャリアアップの方向性が今のままでいいのかどうか、もっと社会性や人間性などを育む方向に力を入れていくべきではないかという点が問われます。

発見者となるケアマネの重要性、再認識を

もう1つは、ケアマネの話です。(2)の養護者(家族等)による虐待ケースにおいて、誰が相談・通報者となっているのでしょうか。ここ数年の統計を見ると、2019(令和元)年度まではケアマネがトップで、相談・通報者の3割近くを占めていました。ところが、今調査結果では、トップが警察で約3割を占め、ケアマネは25%台まで低下しています。

新型コロナ禍によって、訪問によるモニタリング機会等が減らざるを得なかった要因もあるでしょう。問題は、それによって「潜在化しがちな世帯内の虐待」の発見が難しくなる可能性です。警察が相談・通報者となるのは、すでに顕在化しているケースが多いと考えられます。となれば、ケアマネによる相談・通報の減少により、水面下の虐待リスクはさらに増えている懸念もあるわけです。

コロナ禍で減少は見られたとしても、やはり重要な発見者となるのはケアマネです。その役割がしっかり果たされてこそ、虐待被害者の早期の安全確保が図れる──この点を考えた場合、やはりケアマネの果たす社会的役割をもっと広くとらえつつ、国として適正な評価を行なうことが欠かせません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。