現場が「逓減制緩和」に乗らないのはなぜ? 次期改定に向けての検討課題

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2021年度の介護報酬改定で、居宅介護支援における「担当件数の逓減制」の緩和が図られました。その緩和適用の基本報酬Ⅱ区分について、施行から半年の10月審査分では算定率が約1割となっています。この数字をどのように受け止めればいいでしょうか。

改定前から要件を満たしているのは4割強

今改定の逓減制の緩和について、その適用の要件を改めて確認しましょう。具体的には、以下の2つをもって、ケアマネ業務の負担軽減や効率化に資する取組みを行なっていることです。1つは、情報通信機器(ICT。AI含む)を活用していること。もう1つは、事務職員を配置していることです。

注意したいのは、今改定前から「ICT導入」や「事務職員の配置」を行なっている事業所が一定以上あることです。厚労省の調査では、「ケアマネジメントプロセスにおいて携帯情報端末を利用している」というケースは約1割。また、事務職の配置については、「1名以上配置している事業所」が35%を超えています。逓減制の緩和適用は、前者か後者の「いずれか」が要件ですから、本来であれば4割以上が適用要件を満たしている計算です。

ちなみに、逓減緩和前で最大39件として、緩和後に最大44件とした場合のケアマネ1人あたりの増収額を計算してみます(報酬アップ分も含む)。仮に利用者すべてが要介護3以上として、月あたり約8万円(1点=10円として計算)の増収となります。改めてICTを導入したり、事務職員を雇ったりというコスト負担がない状況であれば、逓減制の緩和適用に向けたインセンティブは、一見冒頭の数字以上に高いと考えられるかもしれません。

多くは「逓減制」の範囲内での増収を選択?

しかし、現実はそうなっていません。なぜかを考える前に考慮したいのは、今改定に向けた議論で示された以下のデータです。

それは、「ICT導入なし」あるいは「事務職配置なし」の場合、それぞれ担当件数の平均は30件前後になっていることです。そして、「ICT導入あり」、「事務職配置あり」となっても33件前後にとどまっています。

つまり、実質的にはプラス3件となるわけです。現実はこの数字にとどまっているとするなら、逓減制の緩和を選んだ事業所が1割弱というのも、ある意味うなづける数字です。

なお、この場合の増収を先の計算にあてはめれば、ケアマネ1人あたり月5万円ほどになります。経営面からこの数字にとどめておくのを「良し」とするか否かは別として、担当件数増による「ケアマネの負担増」に対して、事業者は神経質になっていると考えた方がよさそうです。それは、この後に述べるような事情があると考えられます。

数字上は「担当プラス10件」となる可能性も

仮に将来を見据え、今改定をきっかけに「ICT導入等」を図ったとします。その時点での1人あたり担当件数を平均値の30件としましょう。それを1人あたり40件オーバーにすれば、最低でもプラス10件となります。ICT導入等で業務効率化が進んだとしても、この増加を「現場のケアマネ側が納得するかどうか」と言えば、見通しは明るくないでしょう。ただでさえケアマネ不足が深刻な中、ケアマネ自身が「働き方が意に沿わない」と感じれば、離職まで誘発させかねません。

そのうえで考えるべきは、先のケアマネ自身の「働き方の意」に、今改定のようなしくみ自体が沿っているのかという点です。

「逓減制の緩和策」の前提となっているのは、「適切なケアマネジメントの実施を確保しつつ、収支改善を図る」ことです(介護給付費分科会で提示された論点より)。つまり、収支改善を図るうえで担当件数を増やすことが有効であり、それを実現するために「ICT導入」や「事務職員の配置」による業務効率化を進める──という流れになっているわけです。

施策の意図は、十分に整理されているのか

もちろん、「業務効率化の分を本来的なケアマネジメントの質向上に活かす」という視点が無視されているわけではありません。逓減制の緩和を適用しなくても基本報酬は上がり、特定事業所加算も引き上げられたからです。

しかし、それが現場のケアマネの期待レベルに至っているのかとなると、話は別です。むしろ、「ケアマネ不足から担当件数を増やしてもらいたい」という意図と、「ケアマネジメントの質を向上させる」という意図が混ぜこぜになっているゆえに、現場視点では中途半端に映っているのではないでしょうか。見方によっては、両意図のベクトルは逆方向を向いていると感じることもあるはずです。

ケアマネの中には、ICT導入や事務職員の配置による負担軽減の分を「担当利用者数を増やす」のではなく「1人の利用者あたりの向き合い方に時間をかける」ことに使いたい──そう考えている人も多いでしょう。利用者の課題が複雑化し、世帯課題の一部を他機関につなぐ等の状況も増える中では(実際、国も共生社会の実現に向けて力を入れている部分です)、特に「向き合う時間の確保」を重視するケアマネは増えているはずです。

そうした「現場のケアマネジメントが必要としていること」をもう一度整理したうえで、どこに重点を置いた評価とするのかを再検討する余地がありそうです。今回の区分Ⅱの算定率は、2024年度改定に向けて現場が突きつけた問題意識の現れと位置づけたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。