性的マイノリティへの人権意識 その「問い」に応えるための土台

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昨今は、性的マイノリティにかかる人権意識がますます問われています。そうした中、介護保険関連の申請書の一部における「性別の記載」を不要とする通知も発せられました。一方、介護現場においても、性的マイノリティへの理解を深める必要性が高まっています。

自己肯定感が損なわれたままの当事者も…

性的マイノリティや、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)といった性的指向・自認を持つ人への社会的な理解は、以前より格段に深まりつつあります。しかしながら、いまだに誤解や偏見が根強く残っていることも事実です。
 たとえば、社会生活のさまざまな場面で、嘲笑されたり避けられたりするケースも見られ、自己肯定感が損なわれたまま「生きづらさ」を感じる当事者も少なくありません。

国としても、国民に向けたさらなる啓もうを進めつつ、今回のような制度にかかる見直しに力を入れようとしています。すでに一部の医療現場では、診察券等に「性別表記をしない」という取組みなども進んでいます。

介護現場に対しても、今年3月の全国介護保険等担当課長会議で、「LGBTといった性的指向・性自認を持つ利用者への配慮」への指導徹底を自治体に求めています。2021年度改定で、高齢者の人権擁護や虐待防止にかかる取組みが強化されましたが、それらの取組みの対象と位置づけられているわけです。

現行制度との関係での支援困難なケースも

高齢期の性的マイノリティへの支援といえば、2016年にNPO法人・パープル・ハンズが、介護・福祉関係者向けのハンドブック(高齢期の性的マイノリティ理解と支援ハンドブック。パープル・ハンズのHPよりダウンロードできます)を発行しています。

そのパンフレットによれば、性的マイノリティの利用者は、子どもがいないことが多く、親族と疎遠なケースもあるといいます。いざという時に頼れるのが同性パートナーとなった場合、介護現場がきちんとキーパーソンとして受け止められるかどうか。また、制度上の不利益(同性による婚姻が現行で認められていない中、法定後見で「申立者」となる親族となれないなど)に直面した場合、周囲はどのようなサポートが可能なのか──など、掘り下げるべき課題は尽きません。

さらに、性的マイノリティの高齢者は、今とは比べ物にならないほど、周囲の無理解や偏見にさらされる時代を生きたきた人が大多数です。そのため、「自分の生活史・生活歴」などを表出したがらないこともあります。

特にケアマネにとっては、その人のバックボーンを知るという点で大きなハードルが生じやすくなります。たとえば、同性の同居人がいる場合、本人とその人との関係性について、どこまで踏み込んだ確認が可能なのかについて悩んだりするケースも聞きます。

性的マイノリティに限らない「生きづらさ」

介護現場は、「その人らしい生活の姿」を取り戻すためのケアに日々取り組んでいます。そこでは、その人の「生きづらさ」の原因に思いを寄せつつ、チーム内で理解者を増やしつつ少しずつ「原因」を取り除くことも必要になるでしょう。それは、性的マイノリティへの支援に限った話ではありません。

利用者の中には、生まれ育った環境や学歴などにより、様々な差別や排除にさらされてきた人がいます。そこで蓄積された「生きづらさ」を解きほぐすには、社会構造などを深く見つめられる人間性やスキルが不可欠です。

2021年度にすべてのサービスで義務づけられた「利用者の人権擁護、虐待の防止等のため」の体制の構築や研修の実施は、実はそうした大きなテーマを見すえた規定であるととらえなければなりません。従事者のアンガーマネジメントなども重要ではありますが、それだけではなく、「介護という職業の理念」にかかわる問題であるという点に視点がおよぶかどうかが問われるわけです。

現場への指導強化だけでは追いつかない問題

問題は、基準を定めた国の側が、そこまでの深い視点を土台にすえているのかという点です。先の課長会議で取り上げられた性的マイノリティについても、関連報道が増え、社会的関心が高まってきたから──という背景だけで「指導を徹底する」のでは、どこまで現場に響くのか疑問と言わざるを得ません。

たとえば、介護保険がかかげる高齢者の自立支援と尊厳保持についても、その人の「生きづらさ」の解消に向けたケアがきちんと提供できなければ、制度の理念に近づくことは困難でしょう。となれば、現場従事者が「その人の人生を深く見つめる」だけの余裕と、適時適切なヒントを得られる機会を整えることが欠かせません。そのためには、従事者を疲弊させるワンオペ等の徹底排除と、スーパーバイズできる人材の現場派遣を思い切って拡充などの対策なども必要となるはずです。

そうした下支えなくして、行政による「指導の徹底」などを図っても意味はありません。2021年度で設けられた新基準は、それに見合った体制づくりのための予算措置なども、本来は図られてしかるべきです。介護現場に、多様かつ複合的な課題がますます増える時代に向けては、それに見合った「人づくり」のあり方も問われていると意識したいものです。

【関連リンク】
厚労省通知vol.1057,1058について|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム

特定非営利活動法人 パープルハンズ

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。