大胆予測。「適切なケアマネジメント手法」を 制度上でどのように反映させる?

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厚労省が、「適切なケアマネジメント手法」の普及に向けて、手引きの作成や動画の配信などさまざまな事業を展開しています。最新の通知では、実践研修の実施に向けて実施団体等の募集が行われました。その先を見すえた場合、やはり2024年度改定など制度上での位置づけがどうなるのかが気になります。

「実効性の担保」に向け厚労省が目指すこと

「適切なケアマネジメント手法」については、2021年度改定時の介護給付費分科会でも、「実効性が担保されるような方策」を求める意見があがりました。同改定では具体策は示されませんでしたが、2024年度改定に向けてはより突っ込んだ議論が展開されるでしょう。

すでに2020年度は手法の再整理を行なったうえで、手引き(2万部)が作成されました。これをもとに、モデル地域での実践セミナーも行われ、2021年度には計20本の動画を公開。動画の視聴回数は、2021年4月時点で18万回以上を記録しました。

そして、今回の実践研修に向けた募集となったわけです。厚労省がこれだけ力を入れている状況を見た場合、現場としては「次のステップ」が気になるところでしょう。

そこで、この「適切なケアマネジメント手法」をめぐる制度上の展開について、少々大胆に予測してみたいと思います。

基準上ではどのように反映されるのか?

1.ケアマネ法定研修カリキュラムへの反映

まず予測されるのは、ケアマネの各種法定研修のカリキュラムを見直したうえで、そこに「適切なケアマネジメント手法」を反映させることです。すでに厚労省はカリキュラムの見直しを確定事項としていて、老健事業においてカリキュラム案も示しています。

同案では、「生活の継続を支える基本的なケアマネジメント」および「疾患別のケアマネジメント」の部分で、「適切なケアマネジメント手法の類型にもとづいた変更」が明記されています。実際の改定でも、同様の見直しが行われることは間違いなさそうです。

2.基準上の義務として明記

上記のカリキュラム見直しを図ったうえで、その知見を現場実務に活かすには、日常の業務上で意識づけを図ることが必要です。そこで、2024年度の基準改定で「居宅介護支援の基本方針」に「指定居宅介護支援の提供にあたっては、適切なケアマネジメント手法に則ること」などを明記する可能性があります。

あくまで「理念的」な規定ではありますが、基準上で定められるとなれば、指導・監査、あるいはケアプラン点検に際してのチェック項目と位置づけられます。ケアプランの記載要領なども改定されるかもしれません。

報酬上の「要件」に反映させるとしたら?

3.報酬上の加算での対応

「2」の基準により指導・監査、あるいはケアプラン点検の対象になるとして、ケアマネジメント過程で「適切なケアマネジメント手法」が反映されているかどうかをチェックするうえでは、一定の評価指標が必要です。

たとえば、手引きで示されている「基本ケア」や「疾患別ケア」の中項目をチェックする評価指標などが示されるかもしれません。とはいえ、こうした評価指標を新たに作成するとなれば、現場の実務負担の軽減という施策の流れに抵触する懸念も生じます。

そこで、「2」の基準は一応定めたうえで、実際の評価は「現場で行なう」というやり方も考えられます。具体的には、各種ケアマネ実務に管理者・評価者が同行し定期的なOJTと実務評価を行なうといった具合です。

そして、これを全ケアマネに定期的に行なうことを「特定事業所加算」の新要件に(あるいは新要件にともなう新区分を)設定する──こうした改定が行なわれる可能性も、頭に入れておきたいものです。

AIとの関係。そのうえでの要件設定など

4.プラン作成支援AIとの連動

もっとも「3」については、加算とはいえ評価者を立てたり、実務上での手間(評価内容を別途記録に残すなど)がかかる点で、これが逆に普及を阻む恐れも付きまといます。

そこで「3」の別バージョンとして、ケアプラン作成AIにおいて「適切なケアマネジメント手法」に沿ったアウトプット(ケアマネへのアドバイス含む)が行われるようなしくみを実装することが考えられます。このAIをケアプラン作成に活用することを、先の特定事業所加算の要件とするわけです。

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これらはあくまで予測であり、現場の実務との兼ね合いで、さまざまな異論が出てくる可能性もあるでしょう。となれば、当面は先の「1」と「2」を進めたうえで、加算要件に組み込むような実務への反映については、その次(2027年度)の改定に向けて議論するという流れになるかもしれません。

実際、政府が2016年に示したニッポン一億総活躍プランの工程表では、「適切なケアマネジメント手法を踏まえたケアマネジメントの実施」のゴールは2026年となっています。まずは、2024年度でステップを踏んだうえで、2027年度に到達点を目指すという道筋も想定されます。いずれにしても、まずは2024年度改定に向けて、どのような議論が展開されるのかに注目することが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。