介護費用の増大は、高齢化だけが原因? 注意したい、コロナ禍と総合事業の関係

イメージ画像

2020年度の介護保険事業状況報告が公表されました。その年度での1号保険者数や要介護認定者数、サービス受給者数、費用・給付費額などをまとめたものです。費用額が初の11兆円に達したことが大きなトピックですが、その背景や今後の見通しを掘り下げます。

1号被保険者の伸びはいったん抑制期に

費用・給付費額の大きさについては、「人口の高齢化によるサービス増」としてくくられがちです。一方で、高齢化とサービス増の関係や費用をめぐる内訳などにきちんとスポットを当てて分析をしないと、制度の持続可能性に向けた中長期的な議論は難しいでしょう。

ここでは、過去5年(2016年度から)の推移に着目し、まずは「高齢化とサービス増の関係」に焦点を当ててみましょう。

最初の高齢化の推移ですが、1号保険者数の内訳を取り上げます。それによれば、2016年度から2020年度にかけて「65~74歳」の伸び率は、1.4%⇒1.0%⇒0.8%⇒0.7%となっています。2015年度に団塊世代が全員65歳以上を迎えた後、伸び率は抑えられています。

一方、「75歳以上」については、2.8%⇒3.1%⇒1.8%⇒0.2%で、2016年度から2018年度に大きく伸びた後、急速に伸び悩む傾向が見られます。もっとも伸びの高い2018年度は、その年に75歳に達する人の生まれが1943年。終戦間際の前で、出生数がまだ著しかった時代です。その後に終戦の混乱期を迎え、出生数は大きく減少したと考えられます。

高齢化が落ち着いても認定者増大の背景は?

上記の点を頭に入れたうえで、次に要介護・要支援認定者数の推移を見てみましょう。それによれば、2016年度から2018年度にかけては、伸び率は1.4%⇒2.6%⇒1.6%⇒2.0%。

75歳以上が一気に伸びた2018年度は、やはり伸びが目立ちます。一方で、その後に高齢化状況が落ち着いた2020年度に、再び伸び率が2%台となっています。

恐らく推測されるのは「コロナ禍」の影響でしょう。2020年度は、感染拡大そのものもさることながら、ワクチン接種が始まっていなかったため、高齢者の自主的な行動制限やサークル、通いの場等の地域活動の休止などが目立った時期です。これにより、閉じこもり傾向の高齢者が一気に増え、介護保険ニーズが高まったことが想定されます。

そのうえで注視したいのは、中でも要介護1・2の伸びが+2.4%と目立っていることです。要支援からの悪化が際立っていると推定すれば、コロナ禍で訪問型・通所型の総合事業(特に住民主体によるB型など)が機能していない状況も浮かぶことになります。

団塊先代が75歳に達すれば費用12兆円も?

上記の点について言えば、サービス受給者数の推移が1つの状況を物語っています。居宅系のサービス受給者については、2017年度から予防訪問・通所介護の総合事業への移行が本格化しました。それにより、2016年度と2017年度の居宅サービスの利用者は、391万人⇒376万人へと大幅に減少しています。

ところが、2019年度から2020年度にかけては、384万人⇒393万人と再び一気に増加。結局、総合事業移行前の数字に戻ってしまったわけです。2020年度でこうした数字ですから、コロナ禍がさらに深刻化する2021・2022年度の状況は推して知るべしでしょう。

費用額は早期に12兆円に達するのは間違いなく、その後に団塊世代が75歳以上に到達し始める2023年度には13兆円という規模も視野に入ります。中でも要介護1・2の伸びが際立つとするなら、その部分の訪問・通所介護を「総合事業に移行すべし」という議論がさらに高まることも予想されます。

コロナ禍での給付の総合事業移行の落とし穴

しかし、冷静に振り返るなら、今回の費用額の伸びは、そもそも予防訪問・通所介護の総合事業への移行が下敷きになっているのではという見方もできます。つまり、平常時はともかく、いったんコロナ禍のような非常時が訪れたとき、総合事業の重度化防止機能にぜい弱性はないのかという点です。

このあたりの検証を十分に行わないまま、「コロナ禍での費用の伸びを抑えるべく、要介護1・2の一部サービスを総合事業に移行させる」という議論が先走るとします。
仮にコロナ禍などの状況が続く、あるいは他に新たな感染症等が拡大するなどの状況が訪れたとき、今度は要介護3以上の認定が増え、サービス費用はさらに拡大する恐れも出てくるでしょう。そうなれば、制度の持続可能性はさらに危うくなることが想定されます。

ちなみに、近年の介護保険費用の拡大要因の一つとして、介護医療院や施設系以外では看護小規模多機能型など「医療・看護」の提供が包括されているサービスの拡大があげられます。このことは、今回の事業状況報告内の「サービス別1人あたり給付費」のデータからもうかがうことができます。

現在、施設等での医療提供にかかる給付の整理が論点となっていますが、この部分について、診療報酬と介護報酬の住み分けをまず検討することは不可欠です。そのうえで、先の「総合事業のあり方」の検証を同時に進めていくことが、制度の持続可能性を論じるうえでポイントになるのではないでしょうか。

高齢化が進むのは前提であるとしても、単純に目先のサービス抑制に走ることが何をもたらすのか。やがて2年半となるコロナ禍を通じ、私たちが学ぶべきことは多いはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。