介護予防支援を包括から切り離す!? 保険者提案等で再び浮上しそうな論点

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2024年度の介護保険制度見直しを議論する介護保険部会で、地域包括支援センター(包括)にかかる実務上の環境整備がテーマとなりました。総合相談支援の対応が増える中、介護予防支援にかかる業務が、包括の大きな負担になっていることを受けたものです。

包括の5割が介護予防支援に強い負担感

9月12日に開催された介護保険部会の資料では、包括が「負担超過(過負担)になっていると思う業務(複数回答)」についての調査結果が上がっています。トップが「介護予防ケアマネジメント」で55.7%、次いで「総合相談支援業務」で38.2%となっています。

ちなみに、包括1件あたりの相談件数は、2020年度が3340件。これは5年前の2015年度と比較して、1.4倍近くなります。加えて、包括を対象とした調査からは、総合相談の内容が複雑・多様化していて、「すぐに解決できないケースが多い」、「数か月から数年単位での支援が必要」という声が上がっています。

このように相談支援の状況が大きく変化する一方で、「介護予防ケアマネジメント」の状況も変化しています。高齢者の増加で「介護予防ケアマネジメント」のニーズが拡大しているだけでなく、地域によって「ケアマネ不足により、委託ができにくい」あるいは「委託したくても居宅介護支援事業所が受けてくれない(直プランの増加)」という事情が、負担に拍車をかけている様子が浮かびます。

包括を経由せずに居宅ケアマネが担う案

ご存じのとおり、2021年度改定では、包括から居宅介護支援事業所への介護予防支援の委託について、委託時の情報連携等の手間を評価した「委託連携加算」が誕生しました。

ただし、算定件数は改定から1年後の2022年4月時点で1万1400件。同月の介護予防支援の初回加算の算定件数が2万900件なので、その半分にとどまっています。

仮に、こうした施策が「包括の負担増」の解消策に十分つながっていないとなれば、近年の総合相談業務の増加を受けて、さらに踏み込んだ論点が示されるかもしれません。
部会の議論では、「介護予防ケアマネジメントの業務のさらなる簡略化」や「居宅介護支援事業所に委託しやすい環境や報酬のあり方」などが上がっています。しかし、もう一歩踏み込むなら、「居宅のケアマネが直接手がける」という案も視野に入ってくるでしょう。

ちなみに、部会で示された資料内には、「介護予防支援に関する令和4(2022)年度地方分権改革提案の内容(さいたま市等)」が上がっています。その提案内容は、「(介護予防支援について)他のサービスと同様に広く民間法人の参入が可能となる措置を求める」というものです。つまり、包括以外で介護予防支援の指定が受けられるようにするわけです。

たとえば、保険者判断で担う主体が変わる?

こうした案は、3年前の介護保険部会でも、一部の委員から「介護予防支援の居宅介護支援事業所への移行」を求めるという形で出てはいました。ところが、最終的な取りまとめでは、「要支援者等に対する適切なケアマネジメントを実現する観点から、外部委託は認めつつ、引き続き地域包括支援センターが担うことが必要」という意見に落ち着いています。

いずれにしても、3年前と同じ議論の展開になっているわけで、今回も「外部委託は認めつつ、引き続き包括が担う」という地点に落ち着くのでは、という見方もあるでしょう。

しかし、すでに介護予防ケアマネジメントの一定の簡略化や委託費の引き上げにつながる加算の設定はなされています。それでも包括の業務負担の課題が増しているとなれば、今回の保険者から出ている改革案を鑑みないわけにはいかなくなりそうです。
1つの着地点として考えられるのは、国がたびたび持ち出す「地域の実情に応じて」というパターンです。これにより、「地域の実情に応じて──つまり、保険者判断で、包括以外にも介護予防支援の指定を可能とする」という折衷案が出てくるかもしれません。

要介護・要支援認定の課題にも着目が必要

ところで、先の「地方分権改革提案」の中では、包括以外に介護予防支援を担わせることについて「市町村が指定権者であり指導権限を持つことから、介護予防支援の質の確保には問題がない」と述べています。要介護者対象であれ、要支援者等が対象であれ、ケアマネジメントの質の確保に向けた体制に変わりはないから「問題なし」ともとれます。

 ただし、これによって「包括の業務負担」という課題は緩和されても、利用者から見て「適宜適切に要支援等のニーズが解決されるのか」となれば話は別です。仮に居宅介護支援事業所が直接介護予防ケアマネジメントを担うことになったとして、ケアマネ不足が解消されず、報酬もなかなか上がらないとなれば、結局は「受け皿が見つからない」というリスクは残ったままとなるでしょう。

 もう1つ問題なのが、当事者の認知機能が低下していても、かかりつけ医の認知症に対する認識が十分でないゆえに「医師の意見書」に「認知症介護の手間」が十分反映されないケースです。そのために、日常生活に支障のある認知症があっても、要支援になってしまう──いまだにそういう事例も認められます。

 そうなると、認知症初期集中支援を管轄する包括が「早期から要支援ケースに伴走すること」の必要性も浮かびます。要介護・要支援認定や医療の現状など、多岐にわたる問題が絡んでいるという認識が求められそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。