住民主体の支援拡充に不可欠な視点── 支援者の「思い」を尊重できているか

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厚労省が、「総合事業の充実に向けた検討会(仮称)」を設置します。昨年の介護保険部会の取りまとめを受け、従前相当以外の多様な主体も含めて支援体制の充実を図ることが目的です。検討会の設置にあたり、現場のケアマネ等が注目したいポイントは何でしょうか。

介護保険前の「支えあい」の姿を振り返る

まだ介護保険制度がスタートする前のこと。地域の高齢者支援のボランティア事例を取材したことがあります。当時から、行政からの助成金などを受けて、住民団体などがさまざまな支援活動を行なっていました。(もちろん、介護が必要な人に対しては、介護保険の前身となる訪問・通所介護などもありました)

上記のボランティア事例の多くは、社会福祉協議会(以下、社協)などへの「利用申込み」が入口となっていました。一人暮らし高齢者などの場合、民生委員が時々本人の自宅を訪ね、困りごとがあれば、社協等を通じて支援につなぐといった具合です。

問題は、地域の風土や自治体の方針によって、ボランティア組織等の整備状況に差があったり、中山間地域で極めて過疎化が進んでいるような所では、なかなか必要な支援につながらないケースも見られたことです。

そうした中、特に組織的な活動というわけではなくても、住民一人ひとりが「放っておけない」あるいは「お互い様」という意識のもとで見守りをしたり、買い物を代行したり。時には、自宅のリビングに近所の閉じこもりがちな高齢者を1人から呼んで軽食やお茶を振舞って過ごすという光景も見られました。

そこに、ご近所づきあいのある退職した看護師が立ち寄って高齢者の血圧を測ったり、近隣の診療所の医師が(診療時間外に)無償で立ち寄って、一緒にお茶を飲みながら高齢者の健康相談に乗るケースもありました。

身近な善意が届きにくくなった時代の課題

当時の高齢化率や後期高齢者数は現在の半分程度、高齢者1人を支える64歳以下の人の数は2倍だった時代です。こうした社会状況もあり、地域を問わず多様な人々の善意による支援が届きやすい環境だったといえます。

その後、人口の高齢化がさらに進み、地域によっては「支え手」となる世代が極端に少なくなりました。さらに東日本大震災などの影響もあり、地域コミュニティの多くも揺らぐ中、ご近所つきあい的な支援だけではカバーしきれなくなったことは周知のとおりです。

なかなか「気づかれにくい」地域課題を計画的に掘り起こし、多様なネットワークによる支援へと組織的につなげていく──そのための地域づくりのあり方を(社会福祉法等の)法律で定め、(介護保険料などの一部を使って)財政面で支えることが不可欠となりました。

地域支援事業で大きな比重を占める総合事業についても、今の時代なりの課題に即応できるしくみが必要なのは言うまでもありません。ここから、あらゆる地域の高齢者の安心を支えることは国全体の課題といえます。

時代が変わっても変わらない基本がある

このように、国レベルで支援体制の強化を進めるとはいえ、「必要な人に支援を届けていくには、一人ひとりの動機づけや意識づけに目を向けなければならない」という基本に変わりはありません。かつてのような、「放っておけない」、「お互い様」という個人の気持ちを尊重しながら、それらを大きな輪の中でまとめていくことが必要になるわけです。

総合事業という介護保険財政の多くでまかなわれるしくみでも、「住民主体」という枠組みを底上げしていくには、上記のような基本がきちんと押さえられているかが重要です。

問題は、「介護保険制度の一翼を担ってもらう」という政策的な意図の中で、先に述べた「支え手」一人ひとりの動機づけ・意識づけがうまくかみ合うかという点です。

たとえば、介護保険制度の見直しに向けて、「要介護1・2の生活援助等を総合事業に移行させる」といった案も再浮上する可能性が高まっています。今回の検討会も、上記の見直し案を横目でにらみながらの議論が進む可能性は高いと言えるでしょう。

支援者が「大切にしているもの」は何か?

そうなると、総合事業のあり方についても、介護給付の持続性を高めるというテーマが先に立ちがちです。住民主体サービスなどを担う人々にとって、「放っておけない」「お互い様」という動機付けの中に「給付の持続性」というテーマが絡んできた時、そのモチベーションに揺らぎが生じないでしょうか。

つまり、支援者側の中で、「自分たちの果たすべき役割は何か」についての方向性にバラつきが生じることが懸念されるわけです。特に認知症の人や急変リスクのある慢性疾患の人も増えるとなれば、たとえ生活援助の範ちゅうでも、これまでとは違う重責(例.異変を早期に察知するなど)を担わなければならないというプレッシャーも強まるでしょう。

こうした中で、住民主体の支援者団体などが持ち続けてきた「心のあり方」を、各種協議体や生活支援コーディネーターなどがきちんと受け止め、フォローアップさせることができるのかどうか。このあたりに、これからの(総合事業を含めた)地域づくりのあり方の軸があるような気がします。

ケアマネにとっても、多様な地域資源による支援をマネジメントすることが制度上でも求められていく中、「支援者」が何を大切にしているのかについて、意識的に耳を傾けていくことが必要になっていきそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。