4月27日の介護給付費分科会で、厚労省が進めていた「テクノロジー活用等(介護助手の活用含む)による生産性向上の取組みにかかる効果検証」の結果が示されました。今回の結果から何を読み取り、2024年度改定でどのように活かすことが望まれるでしょうか。
検証データから浮かび上がるものは何か
検証データでは、職員のタイムスタディや心理的負担の変化、利用者のQOLや社会参加の状況などについて、テクノロジー等の導入前後での数値的な比較などが示されています。これを見ると、全般的に「目指している効果」が現れているといえます。
ただし、これはあくまで対象となった施設(見守り機器等38施設、介護ロボット37施設、介護助手20施設など)でのトータルなデータに過ぎません。たとえば、事業所や施設によって「効果が上がっている程度」に差があるという状況も想定する必要があります。
ちなみに、「生産性向上に意欲的な介護施設」からの実証に関する提案をもとにした調査もあります。(対象施設17)。該当施設では、それぞれに「導入目的」や「達成目標・目指すべき姿」が明確に示され、それに沿った実証手段をもってデータ計測が行われています。
確かに、特定の施設内の体系化された取組みの中で効果が検証されるわけですから、前提として「どのようなマネジメントが必要なのか」もよく分かります。単に「テクノロジー等を導入すればいい」というわけではなく、それぞれの事業所・施設の考え方・ビジョンが強く問われている──この点に注目することの重要性も浮かんでくるわけです。
マネジメントの風土次第で結果に大きな差?
一方、報告書の詳細に目を移すと、「機器類の導入によって職員のオペレーションがどう変わったか」に加え、「変更後のオペレーションによる心理的・身体的負担等」についての現場職員の意見が集められています。
これを見ると、たとえば見守り機器の導入により、「訪室回数が減った(それにより、負担が減った)」という意見もあれば、「見守り機器を数多く導入したことで、通知が多くなり負担が増加した」という意見もあります。
こうした「現場の状況や意見」からもうかがえるのが、現場の課題をきちんと分析したうえで、「何を解決すべきなのか」「そのために何が必要なのか」というマネジメントの重要性です。こうした風土が、そもそも現場組織で構築されているのかどうか。この点にきちんとスポットを当てないと、国が進めようとしている「生産性の向上」は、大きな壁にぶつかることになりかねません。
報酬要件や運営基準で現場改革のインセンティブを図ろうとする場合、仮に上記のような風土が形成されていない現場だと、逆に職員の負担が上昇し、サービスの質の低下を引き起こす恐れも出てくるわけです。
大切なのは、現場の「困りごと」解決の実感
では、制度上で「テクノロジー活用等」を推進するとして、先に述べた「組織マネジメントの向上」をどのように進めればいいのでしょうか。「組織マネジメント」というと難しくとらえられがちですが、言い換えるなら、「組織のトップが現場の状況に目を凝らし、従事者の発する言葉に耳を傾けることができているかどうか」に尽きるでしょう。
そもそも、テクノロジー活用等は何のために行なうのでしょうか。「報酬収入を増やす」とか「人材確保が困難な状況をカバーする」というのは、あくまで事業者側の視点に過ぎません。その目的だけで突き進むと、先に述べたように「現場の従事者としてかえって負担が増えた」などの違和感が高まりがちです。
大切なのは、現場の従事者が直面している「困りごと」が、テクノロジー活用等で「実感をもって解決される」ことです。その解決の実感があってこそ、トップの「テクノロジー活用等のビジョン」への信頼が生まれます。
その信頼があれば、新たな環境に慣れるまでに時間がかかっても、「現場の自分たちで創意工夫して困難を乗り越える」という主体性が育まれやすくなります。本当の生産性向上というのは、こうした地点が見すえられているかどうかにかかっているといえます。
たとえば、問われる「現場ラウンド」の習慣
たとえば、管理者や組織のトップが「現場の課題把握」を目的とした計画的な現場ラウンドを行なう習慣があるでしょうか。ここでいう「計画的なラウンド」とは、ただ「トップが現場に顔見せをする」のではなく、(1)現場で生じる「困りごと」がなぜ生じているかという仮説を立てたうえで、(2)その仮説の検証という目的がともなっていることです。
一例として、施設における利用者の睡眠の質という課題があるとします。その課題がどこに現れるのか。「昼夜逆転による日中の不活発からくるADL等の低下」なのか、「夜間の眠りが浅いことによる起き出しの増加で、転倒リスクが高まっていること」なのか。
意識的なラウンドによって、これらの状況を把握できれば、その背景にある「睡眠の質の低下」をどう解決するかという観点から、「困りごと」解決の道筋を描くことができます。ここから、組織のトップと現場で同調できるビジョンが生まれることになります。
こうした現場風土を推進するためには、何が必要なのか。2024年度に基準等で何らかの定めを設けるのであれば、こうした部分でのインセンティブが欠かせないでしょう。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。