身体的拘束等の適正化をめぐる基準。 新たに対象となるサービス現場の注意点

2024年度改定に向け、介護給付費分科会で運営基準等の諮問・答申が行われました。今回注目したいのは、身体的拘束の適正化の推進にかかる運営基準の強化です。訪問系、通所系、福祉用具系、そして居宅介護支援においても、「緊急やむを得ない場合」等を除いた身体的拘束の禁止が明文化されています。

身体的拘束の適正化と虐待防止の関連

訪問系、通所系、福祉用具系、そして居宅介護支援に、新たに設けられた基準は以下の2点です。(1)サービス提供にあたり、利用者の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束、その他利用者の行動を制限する行為を行なってはならない。(2)(1)の身体的拘束等を行なう場合には、その態様、時間、その際の利用者の心身の状況、ならびに「緊急やむを得ない」理由を記録しなければならない──というものです。

今回の改定を、現場はどう受け止めるでしょうか。「通所系はともかく、訪問系や福祉用具系での身体的拘束がイメージしにくい」、「居宅介護支援で、利用者に身体的拘束をほどこすケースはあるのだろうか」などと考える人もいるかもしれません。

まず頭に入れたいのは、今回の身体的拘束等の適正化にかかる規定が拡大された背景として、高齢者虐待の防止との関連があることです。厚労省は、今改定に向けた議論に際して、「養介護施設従事者等による虐待」についてのデータを上げています。そこでは、養介護従事者等から虐待を受けている高齢者のうち、2~3割は高齢者が「適切な手続きを経ていない身体的拘束等を受けている」という状況が明らかになっています。

高齢者虐待を生じさせる組織風土の問題

従事者等による高齢者虐待等が発生する要因はさまざまですが、「利用者の尊厳を重視したケアが現場風土として徹底されていない」という状況も1つの仮説として上がります。

2022年度の高齢者虐待に関する実態調査(複数回答)でも、虐待の発生要因として「虐待を助長する組織風土等(22.5%)」や「倫理観や理念の欠如(17.9%)」といった組織全体の問題とするものが一定程度見られます。これらは、「虐待を行なった職員の性格や資質の問題(9.9%)」を上回ります。

では、虐待を生じさせる組織風土を改善するには、どうすればいいのでしょうか。2021年度改定では、全サービスを対象に高齢者虐待防止のための委員会や指針の整備、研修の実施等を義務づける規定が設けられ、2024年度からは完全義務化とともに未実施での減算規定(一部サービス除く)も設けられます。

ただし、これらの規定は「何を行なうか」を示したものではありますが、「組織上の取組みをどう変えていくか」を明確に示したものではありません。体制整備に向けた事例集などはありますが、こうしたものを活用するかどうかは事業者に任せられます。

身体的拘束にかかる「記録」がもたらす効果

そうなると、高齢者虐待の防止を視野に入れて、「現場がやらなければならないこと」を何かしら定める必要があります。仮に「不適切な身体的拘束が行われていること」が組織風土の現れであるとするなら、それを規制するための実務(今回で言えば、記録の作成)を定めることが、現場従事者の意識とその積み重ねである組織風土を変えるうえで、1つのきっかけとなるのではないか──ここに、今回の新基準の背景があると考えられます。

たとえば、記録を作成するとなれば、「緊急やむを得ない場合」とは何かを考えなければなりません。また、そもそも身体的拘束とは何を指すのか、現場全体に周知させる機会も必要となります。そうした過程で、「利用者の人権を侵害するケースと何か」について、全従事者に改めて意識させようというわけです。

厚労省が調査研究事業等で示している事例では、車いすの利用者を「大きなテーブル」と「壁」ではさむようにして、自ら車いすを動かせない(また、立ち上がれない)ようにしているケースなどが上がっています。Y字型束帯などを使っているわけではありませんが、これも身体的拘束の1つです。

ケアマネによる身体的拘束のケースとは?

通所介護や訪問介護の現場でも、「(従事者が対応できない)少しの間だけ、そうした状況に利用者を置く」といったケースはないでしょうか。福祉用具貸与でも、たとえば介護用ベッドのサイドレールの取り付け方1つで、利用者が容易にベッドから降りられない状況を作ってしまうことはないでしょうか。仮に家族からの要望があったとしても、これも身体的拘束にあたる可能性に注意が必要です。

そして、居宅介護支援です。たとえば「利用者の一人での立ち上がり」などを防ぐために、上記のような(利用者が自ら動けないような)ポジショニングをケアマネが提案した場合などはどうなるでしょうか。「家族からの相談に応じた」というケースでも、ケアマネのアドバイスがなければ身体的拘束が発生していないとなれば、これはケアマネによる身体的拘束と解釈されるかもしれません。

具体的ケースなどを含めた留意事項はまだ出されてはいませんが、「こんなことも身体的拘束に当たるのか」と思うような事例が出される可能性もあります。当然、実地指導などでもポイントとして上がってくるでしょう。「今回の規定は、ケアマネにはあまり関係ないのでは」と考えることなく、改めて身体的拘束について学び直す必要もありそうです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。