
2024年度改定では、ほぼ全サービスに虐待防止措置の未実施減算が設けられました。その適用要件について、解釈基準や疑義解釈を見ると分かりにくい印象を受けます。現場での混乱も生じやすい中、特に小規模事業所などが心得ておきたい点はどこにあるでしょうか。
虐待防止措置未実施の場合の「実務」を整理
3年の経過措置を経て、「高齢者虐待防止措置」が2024年度から原則全サービスで義務化されました。そのうえで未実施の際の減算が導入されます。居宅介護支援や訪問・通所系、福祉用具系等の居宅サービスも同様です。
具体的には、運営基準上で義務づけられた「委員会の定期開催」「指針の整備」「研修の定期実施」「担当者の配置」について、いずれか1つでも未実施の場合に、所定単位数の1%が減算されます。気になるのは、「いつからいつまで減算されるのか」でしょう。
実務的には、A.先の義務化措置の未実施状態が生じた場合に、都道府県(地域密着型の場合は市町村)に「改善計画」を提出します(注1)。B.Aの未実施状態の事実が生じた時点から3ヵ月後に、先の「改善計画」にもとづく改善状況を指定権者に報告します。
減算期間は、上記Aの未実施の事実が生じた月の「翌月」から、Bの報告によって改善が認められた「該当月」までとなります。
※注1…解釈基準では「居宅介護支援」も提出先は「都道府県」となっていますが、厚労省に問い合わせたところ、正しくは「市町村」、つまり指定権者への提出となります。
「過去にさかのぼっての減算はしない」
注意したいのは、Aの「改善計画」について「未実施の事実が生じた時点から速やかに」とされていますが、具体的な期限は定められていないことです。一方で、減算適用は、「未実施の事実が生じた時点」からとなります。
仮に「未実施状態」にもかかわらず、「改善計画」が提出されていないとします。その場合、実地指導等で「未実施状態」の事実が判明すれば、その翌月から改善が認められるまでの間が減算になります(疑義解釈より)。
ここでの問題は、やはり疑義解釈で、「(未実施の状態が生じた)過去にさかのぼっての減算は適用しない」としている点です。あくまで、実地指導等で「未実施」が判明・発見された時点から減算スタートになるわけです。
となれば、(「意図的」か「ついうっかり」かは別として)「未実施」にもかかわらず「改善計画」を出さないというケースでも、実地指導等での判明・発見があるまでは「減算は適用されない」ことになります。
BCP未策定減算では「さかのぼり適用」あり
もちろん、その間に利用者への虐待(家族等による虐待も含む)が指定権者に通報された場合、関係する事業所・施設には厳しい指導が行われ、場合によっては何らかの行政処分が下される可能性はあるでしょう。
しかし、減算適用がさかのぼれないとなれば、「指導があるまで、正直に改善計画を出す必要はない」と考える事業者も出てくる可能性があります。真摯に高齢者虐待防止に取り組む意思のある事業者と、そうでない事業者との間の格差が広がりかねないわけです。
ちなみに、同じく経過措置を経て完全義務化された業務改善計画未策定減算については、「基準を満たさない事実が生じた時点までさかのぼって減算が適用できる」としています。
つまり、2024年度改定施行後のある時点で「BCPを策定していない」という事実が判明した場合、改定が施行された2024年4月(1年の経過措置があるケースでは2025年4月)から、減算が適用されることになります。完全義務化にともなう減算規定という点では同じですが、この「さかのぼり算定の可否」という点で大きな違いが見られます。
小規模事業所に配慮したつじつま合わせ?
このあたりは、やはり一人ケアマネのような小規模事業所への配慮がうかがえます。
両減算を比較した場合、業務継続計画未策定減算については、「BCPに基づいた研修や訓練の未実施」は問われていません。あくまで「BCPの策定とそれに従った措置」が対象であり、この場合の措置とは「必要な備蓄品や体制の確保」が想定されます。
これに対し、高齢者虐待防止措置未実施減算は、「委員会の開催」や「研修の実施」の有無が問われます。BCP策定も組織的な対応は必要ですが、委員会や研修の開催・実施が問われるとなれば、「定期的に従事者が動き参加する」という行動原則が強くなります。
小規模事業所となれば、上記の「行動原則」を満たすために、従事者1人あたりの制約される時間が大きくなるのは必然でしょう。
疑義解釈では、小規模事業所での委員会開催や研修実施について、積極的な外部機関等の活用を求めています。それでも1人ケアマネ等の極めて少人数となれば、外部機関との合同委員会(注2)・研修に参加する時間が定期的に費やされます。利用者の虐待防止は重要なテーマとはいえ、ケアマネジメントにかける時間と労力に影響がおよびかねません。
厚労省がこうした状況を懸念する中で、今回のような「分かりにくい疑義解釈」が出てきた可能性は高いでしょう。しかし、こうした疑義解釈による「つじつま合わせ」は、先に述べたような対応の格差を広げる懸念が付きまといます。国として、小規模事業者に対してはより明確なサポートが望まれそうです。
※注2…外部事業者との合同委員会の場合、具体的な虐待事例が取り上げられることから個人情報保護が問題となりやすく、疑義解釈ではあくまで「同一法人内の複数事業所」という表現が用いられています。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。