ケアマネの業務範囲にどのような影響が? 終身サポート事業の「これから」に注意

今年4月に施行された孤独・孤立対策推進法にもとづく政府会合で、高齢者等終身サポート事業者ガイドライン案が示されました(5月18日までパブリックコメントを募集中)。同案では、ケアマネとのかかわりについての記述も目立ちます。現在議論が進む、ケアマネの業務範囲との関係にも注意が必要です。

高齢者等終身サポート事業をめぐる課題

高齢者等終身サポート事業は、身寄りのない高齢者等に身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを行ないます。ガイドライン案では、一人暮らし高齢者等の増加にともない事業者も増え続けているとしています。

ただし、どれくらい増えているかという実態は明らかではありません。総務省が2023年8月に示した調査結果では、自治体や社協が実施しているものを除くと412事業者が把握されています。とはいえ、こうした実態把握に上ってこない事業者の存在も想定されます。

サポート対象が利用者の金銭管理など各種権利擁護におよぶことから、悪質な事業者によるトラブルも懸念されます。そうした状況も視野に入れつつ、今回のような国によるガイドラインの作成が求められていました。

ポイントの1つが、事業の質を担保する効果も含め、利用者にかかわる多機関との連携が重視されることです。たとえば、利用者にかかりつけ医がいて、容態悪化リスクもある場合、医療機関との連携は欠かせません。本人が介護保険を利用しているケースであれば、ケアマネとの連携も重要になります。

ケアマネがサポート事業者と連携する機会

当サポート事業とケアマネのかかわりについて、今回のガイドラインで示されているポイントをピックアップしてみましょう。

たとえば、事業者が利用者の緊急連絡先を受託する場合、その旨をあらかじめケアマネに知らせることなどについて、利用者と相談しておくことが望ましいとしています。

ご存じのとおり、ケアプランでは1表の「総合的な援助方針」において、緊急時の対応機関やその連絡先を記すことが望ましいとされています(ケアプラン記載要綱より)。重度の在宅利用者が増える中、容態急変などの緊急リスクも高まることを想定すれば、サポート事業者のような緊急連絡先を着実に把握することも今後は重要になってくるでしょう。

また、事業者が身元保証サービスを手がける場合、事業者と多機関とのかかわりが特に問われるのが、本人の入退院や施設等の入所・退所のケースです。たとえば、本人との契約にもとづく対応などについて、入院医療機関に伝えることの重要性が示されています。

一方、ケアマネも入院時の医療機関との情報連携が必要となります。その際、情報提供書では「人生の最終段階における医療・ケアの情報」に関する話し合いの内容や、「今後の在宅生活の展望」についての本人の意向を記す必要があります。となれば、サポート事業者との連携も不可欠となるでしょう。

日常生活支援サービスを受任するケース

2024年度改定では、入院時情報連携加算にかかる情報提供の迅速化が図られました。つまり、一定の情報について、連携機関等との平時からの情報共有がカギとなるわけです。

ケアマネとしては、どのタイミングでサポート事業者との連携機会を確保するかといった実務フローの構築を求められそうです。

さて、入退院等以外で、ケアマネがもう1つ頭に入れておきたいケースがあります。それは、サポート事業者が利用者から「日常生活支援サービス」を受任する場合です。

この日常生活支援サービスとは、ガイドラインによれば、「通院の送迎・付き添い」「買い物への同行・購入物の配達」「介護保険等のサービス受給手続きの代行」などが想定されています。また、財産管理関係としては、「公共料金等の支払手続きに関する手続き代行」「預貯金の取引に関する事項」「税金の申告・納税・還付請求、還付金の受領に関する手続き代行」などを例としてあげています。

ちなみにガイドラインでは、上記のサービスについて、利用者の許諾を得て、他の事業者との間で複委任契約を締結するケースも想定しています(民法第644条の2第1項より)。場合によっては、日常的にケアマネと連携する保険外(インフォーマル)サービス事業者がかかわることも想定されるわけです。

ケアマネをグレーゾーン実務から解放?

上記の日常生活支援サービス事業の内容を見ると、ケアマネが利用者からの依頼でやむを得ず手がけるといった「グレーゾーン」の実務も見られます。こうしたグレーゾーン負担も、ケアマネにとって大きな課題です。

そうした議論も視野に入っているのか、今ガイドラインでは「(インフォーマルサービス事業者との)業務分担について、ケアマネジャーの負担軽減にもつながることから、当該事業者等とケアマネジャーがよく連携して取り組むことが望ましい」とも述べています。

こうして見ると、高齢者等終身サポート事業の推進と適正化は、ケアマネの実務を大きく変えるきっかけになりそうです。ただし、他法他制度のしくみであることから、ケアマネとして連携に向けた新たな知識やノウハウも必要になってくるかもしれません。

ケアマネの業務負担軽減を視野に入れる一方で、そのための連携が新たな負担となっては本末転倒です。ケアマネ側の業務範囲をめぐる議論でも、今回のサポート事業の位置づけを明確にすることが求められるでしょう。

【関連リンク】

高齢者終身サポート事業向けのガイドライン案示す 内閣府 - ケアマネタイムス (care-mane.com)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。