厚労省で、「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」の議論が続いています。2025年に介護保険部会の議論が始まる頃には、一定の取りまとめが行われていると思われます。ただし、介護保険部会側の議論によって、検討会の改革案が揺れ動くシーンが生じるかもしれません。たとえば、「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」に関してです。
介護保険料の上昇が負担導入議論も左右⁉
かねてから介護保険改革の論点となっていた「ケアマネジメントへの利用者負担導入」。これについて、2023年末には、閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋」で、2027年度前までに結論を出すとされました。また、直近の財務省の財政制度分科会でも、ケアマネジメントへの利用者負担導入が「必要」と提議しています。
これまでは、職能団体や現場関係者からの懸念が強く、利用者負担の導入は実現に至っていません。次の制度改正に向けた議論も紛糾することは確実で、再び見送りとなる可能性はあります。ただし、第9期(2024年度から)の1号保険料が平均でプラス3.5%の引き上げとなったことで、拠出の抑制を図る動きはますます強くなることが予想されます。
そうした中では、現場として、以下の2つの考え方がますます重要になります。1つは、仮に利用者負担が導入された場合の利用者やケアマネ実務への影響を具体的にシミュレーションしていくこと。2つめは、そのうえで職能・業界全体で「生じる可能性のある懸念」について、強く共有を図ることでしょう。
ケアマネの業務再編議論にも影響する可能性
たとえば、利用者負担が導入された場合、利用者・家族のサービス利用動向等にどのような変化が予想されるでしょうか。(介護保険利用の入口部分も含めて)サービスの利用控えが生じるのか。(制度の内外を含めて)ケアマネへの要求レベルが高まるのか。要求レベルは高まらなくても、ケアマネとの関係性にさまざまな変化が生じることも考えられます。
たとえば、特定事業所加算では「24時間の連絡体制の確保」が要件となっています。これについて、利用者からの連絡(輪番携帯への夜間連絡など含む)ニーズが高まれば、「現状の加算単位では業務負担とのバランスがとれない」となりかねません。
その結果、今検討会の議論で「ケアマネの業務範囲の見直し・再編等」に一定の結論が出たとしても、前提となる環境が異なってしまうことも起こりえます。つまり、2027年度改定に向けて基準や報酬のあり方(処遇改善策なども含む)が整えられたとしても、「利用者負担の導入」というテーマのもとで再検討が必要となる場面も出てくるわけです。
そうなると、閣議決定された「改革の道筋」でも述べているように、「利用者やケアマネジメントに与える影響」を踏まえることが不可欠となります。厚労省の老健事業等でも緊急調査のテーマとなると思われます。
地域の連絡会等による自主的な実態調査も
もっとも、国側の利用者調査等の動きを待っていると、どうしても現場対応などは後手に回りがちです。そこで、職能団体や地域の連絡会・協議会として、「利用者負担導入」となった場合の利用者・家族の反応について、今から調査を進めていくことが必要です。
たとえば、担当する利用者に対して、モニタリング時等の訪問機会を利用してアンケートを配布するというやり方があります。アンケートの内容としては、「ケアプラン作成等に利用者負担が導入される可能性」に言及しつつ、「想定される対応」を尋ねます。
ポイントは2つ。1つは、金銭的な負担が増えるわけなので、その分の節約行動(利用しているサービスの種類・回数を減らすなど)が生じるかどうかです。介護保険サービス以外での節約行動(食費や光熱水費の節約など)が生じる可能性にも着目します。
もう1つは、ケアマネに対して何らかのニーズ変化が生じるかどうかです。これは、実際にケアマネが担当としてついている中では、(アンケートが匿名で回答が封印された状態でも)利用者・家族として「具体的には答えにくい」という状況はあるかもしれません。
そこで、「利用者負担が導入された前後で、」変わると思われる状況」を選択肢とする方法もあるでしょう。たとえば、「ケアマネへの連絡回数・頻度」、「ケアマネにお願いしたいことの内容」、「ケアマネからの各種説明の同意」といった具合です。それぞれに具体的な中身を書き込めるようにしてもいいでしょう。
各種ケアマネ改革に向けた現場アクションを
もちろん、ケアマネがますます多忙になる中では、こうした調査自体が実務上の負担になる恐れもあります。そのため、あくまで地域のケアマネの連絡会・協議会の事務局が(お願い文などの作成、回収後の集計等も含めて)一括で行ない、現場のケアマネへの負担をできるだけ軽減する方策が望まれます。
ちなみに、こうした調査を通じることで、地域で潜在している利用者・家族のニーズが改めて浮上することもあるでしょう。その意味では、利用者負担の導入の有無にかかわらず、地域課題のさらなる把握などを進め、合同研修などにも活かすことができます。
いずれにしても、利用者負担導入を含めた各種ケアマネ改革に対し、現場としても積極的な意見発出が求められる時代です。「ケアマネの働きやすさ」をいかに自分たちの手で獲得するか、知恵を絞りたいものです。
【関連リンク】
財務省、介護改革の必要性を強調 利用者負担増など重ねて提言 金融資産の反映も - ケアマネタイムス (care-mane.com)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。