気候変動適応改正により 次期改定では「熱中症対策」もテーマに?

暦の上では「処暑」ですが、依然として厳しい暑さが続き、利用者そして介護従事者の熱中症リスクにはなおも警戒が必要です。昨今の気候変動で毎年のごとく熱中症への警戒が高まる中、国は熱中症対策の強化に向けて気候変動適応法等を改正し、熱中症対策実行計画を策定しています(いずれも2023年5月)。

厚労省から高齢者への声かけ等の協力依頼も

冒頭で述べた一連の動きを受け、2024年8月には、熱中症リスクが特に高い高齢者にかかわる関係団体・事業者に対し、厚労省より協力依頼の通知が出されました。表題は「熱中症対策のための高齢者への見守り・声かけについて」というもので、日本介護支援専門員協会のHPでも周知が促されています。

内容としては、高齢者が熱中症になりやすい理由をあげたうえで、「高齢者の特性を踏まえた熱中症予防行動の呼びかけの例」が示されています。「喉が渇かなくても、早め早めに水分や塩分を補給しましょう」、「エアコンを積極的に使用しましょう。その際、直接肌に風が当たらないようにしましょう(肌が乾燥しないようにするため)」といった具合です。

ケアマネをはじめ、現場で利用者と接する介護従事者にとっては、すでに実践されているものも多いでしょう。今回の協力依頼では、高齢者のための熱中症対策に関するリーフレットも示されていて、こうしたツールを利用者や家族に提供している例もあると思います。

一方で、特に暑さの厳しかった7月の熱中症による救急搬送人員は約4万3000人にのぼり、対前年同月比で6600人以上増えています。割合としては、やはり高齢者が多く、全体の約6割となっています。

近年、熱中症の救急搬送は右肩上がりが続く

気になるのは、先の熱中症による救急搬送人員は、2020年以降急速な右肩上がりが続いていることです。この傾向が続いた場合、2025年7月には救急搬送人員が月間5万人を超え、近年で最高だった2018年の5万4,220人に迫ることも予想されます。

冒頭で述べた気候変動適応法等の改正も、こうした状況を踏まえたものです。来年以降も熱中症リスクの高まりが予想される中、こうした法改正を契機として、2027年度の基準改定等でも「熱中症対策」にかかる規定が誕生するかもしれません。熱中症シーズンには、今回の協力依頼にあるような現場の利用者への声かけを努力義務とするという具合です。

もう少し踏み込むとするなら、居宅にエアコンがない(あるいは故障している)、日中日差しが強く当たる部屋で遮光カーテンがない、温度計・湿度計(暑さ指数を計るWBGT計等含む)がない──という状況を発見した場合、包括や行政に情報提供するといった規定が設けられる可能性もあるでしょう。

先の法改正では、市町村が熱中症対策普及団体を指定するしくみも設けられましたが、こうした機関との連携も、省令や告示において明記されることも考えられます。

利用者だけでなく従事者の熱中症リスクも大

ケアマネをはじめとする(特に訪問系の)介護従事者としては、「仮に努力義務であっても、新たな規定が設けられると、また実務が増大しかねない」と眉をひそめる人もいるかもしれません。国レベルで対策強化を図るのであれば、やはり一定の予算を付けたうえで、何らかの形で現場の処遇に反映させるという議論も必要になってくるでしょう。

それ以上に考えたいことは、今年のような酷暑が続く中では、利用者だけでなく現場の熱中症リスクも高まっているという点です。

特に事業所・施設外で活動することの多いケアマネやホームヘルパーは年齢層が高いうえに、炎天下の移動も多く、利用者宅ではエアコンがあまり効いていないケースもあります。施設等でも、複数の利用者に継続的に入浴介助を行なうといったケースでは、やはり従事者側の熱中症リスクは高まるでしょう。

従事者の体調確保も指標化する時代では?

国としては、高齢者の熱中症リスク対策に力を注ぐのであれば、介護従事者についても、その体調整備を考慮することが重要になるはずです。従事者の体調を整えて業務への集中力を高めることで、利用者の熱中症対策もおのずと進むことになるからです。

ちなみに、2024年度改定では、生産性向上推進体制加算が誕生し、生産性向上の指標として「職員の心理的負担評価」や「タイムスタディ調査」の指標が示されました。

しかし、生産性向上はあくまで「従事者の身体的健康」が維持されてこそ実現できる点を考えれば、日々の従事者のバイタルや体調面の訴えも指標化してしかるべきでしょう。

特に感染症のまん延や熱中症のリスクが高まるシーズンでは、むしろこちらの指標の方が重要になるはずです。生産性という考え方には、どうしても「冷たい」イメージが付きまといますが、従事者の体調・健康の維持・改善こそアウトカムの前面に打ち出すことで、現場の受け止め方も変わってくるでしょう。

熱中症対策について、2027年度改定に向けて何らかの動きが出てくるようであれば、利用者とともに従事者のリスク軽減を国や保険者に義務づけるなどの視点が望まれます。また、その延長として、「介護従事者および家族介護者支援法」のような法整備も本格的に政策工程へと乗せてもらいたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。