ケアマネの業務範囲が拡大しやすい構造。 根本解決のために必要な視点

ケアマネの業務範囲を整理し、範囲外の業務について、どのような対応を図るべきなのか──利用者をめぐる課題がますます多様化・複雑化する中で、ケアマネをめぐる重要課題の1つとなっています。ケアマネの業務環境はどのように再構築されていくでしょうか。

本来業務外の対応、ケアマネはどうしてる?

9月20日のケアマネジメントに関する諸課題検討会の会合では、これまで出された主な意見とともに、業務範囲の整理に向けた論点が改めて示されました。また、ケアマネが手がけている(現実として手がけざるを得ない)業務類型ごとに、地域の実情に応じた対応例なども提示されています。

たとえば、他機関への「つなぎ」に関して、「部屋の片づけ、ゴミ出し、買い物などの家事支援」であれば、「自費サービスやNPO・ボランティア団体等」へ。「福祉サービスの利用や利用料支払いの手続き、預貯金の支払いへ振込等」に関しては「市町村や包括、社協等」との連携が例示されています。

また、居宅介護支援事業所が「保険外サービス」として対応するケースとして、「郵便・宅配便等の発送・受取り、各種書類作成(ケアプラン以外)・発送、代筆・代読、救急搬送時の同乗」が示されています(他の地域資源に「つなぐ」ことも想定されている)。

なお、金銭管理等にかかる「つなぎ」で、「自立支援事業を市町村にお願いしたが手が回らないとして順番待ちとなった」というケースがあります(日本介護支援専門員協会調べ)。そこでは、「順番待ちの間はケアマネが担当せざるを得ない」という、「ケアマネがタイムラグを埋めている」状況も浮かびます。

今後検討が想定される4つの対応策

こうしたケアマネの対応実例を頭に入れたとき、制度面での対応の進め方としては、以下のような流れが考えられます。
(1)居宅介護支援事業所が「介護保険内」で対応できない支援内容について、具体的な例示をもって改めて省令等で明確化すること。

(2)(1)をサービス開始前に利用者・家族へ文書で明示して説明(利用者側から署名をもらうことも想定)、その際に「ケースごとに対応できる機関」のリスト・連絡先も配布すること。

(3)居宅介護支援事業所が「保険外支援」を業務に組み入れる(あるいは専門対応の事業を併設する)といったケースが増えていることを念頭に置きつつ、専用のガイドラインを策定する。これは、すでに策定されている高齢者等終身サポート事業ガイドラインの「居宅介護支援版」という位置づけになります。

(4)(3)に関連して、保険外の費用負担が発生するとなると、利用者側の所得でサービス格差が生じるため、国や自治体による助成などを行なうかどうかも検討対象になること。

たとえば「業務範囲」の説明は誰が行なう?

(1)~(4)のしくみの構築では、留意すべきポイントが多々あります。たとえば、(2)において、誰が利用者・家族等に対して文書提示と説明を行なうのか。「ケアマネ」となれば、新たな実務負担が生じ、ケアマネの負担軽減という流れに逆行しかねません。

これを避けるには、行政からの要介護認定の通知等に際し、上記の説明文書の同封が考えられます。ただし、口頭での説明の問題が残ります。となれば、認定の申請時に窓口で説明するか、あるいは初回のサ担会議時に行政(あるいは包括)担当者が同席し、そこで説明を行なうなどが考えられるでしょう。

もっとも行政や包括も人員不足の折に、上記のような説明機会を確保するのは簡単ではありません。議論がこじれると、やはり「ケアマネが担う」となる可能性も残ります。

その場合、その負担を考慮したうえでの居宅介護支援の基本報酬、あるいは初回加算の「引き上げ」が視野に入ってきます。このあたりの議論をどのように整理するか、仮に将来的にケアマネジメントに利用者負担が導入されるとなれば、その負担が増大することとの兼ね合いも考えなければなりません。

ケアマネが陥りやすい構図に甘えてきた面も

こうしたさまざまな論点の検証とともに、「ケアマネの業務範囲の整理」がなぜ問われているかという原点への立ち返りも必要です。

介護保険スタート以降、独居高齢者の増加や家族介護者の高齢化、社会構造の変化による世帯内の課題の複雑化といった諸々の課題は、常に膨らみ続けていました。国や自治体はそのつど、多様な支援事業を整備してきましたが、伴走的な支援のコーディネート体制が議論されるようになったのは最近です。

その間、利用者にとって「身近で何でも相談できる」という存在は、ケアマネに集中しがちでした。ケアマネにとっても、「専門職として傾聴することがアセスメントの一環となる」という業務習慣があります。両者がマッチすることでケアマネの対応範囲は広がりやすい構造にあり、「つなぐ先」の専門機関の機動力が十分でない限り、ケアマネがタイムラグを埋めざるを得ない傾向も強くなります。

こうした構造を防ぐには、新たな伴走型支援の専門職・機関も求められますが、そこには少なからぬ予算措置等が必要になります。そのため、国は「ケアマネが直面する構造」に甘えてきた──という状況もあるでしょう。
この点を直視すれば、A.新たな伴走型・包括型の専門職を配置し、B.Aが整備されるまで「その分の報酬」をケアマネに上乗せすることが常道となるはずです。今後の議論の行方も、この視点に立って注視したいものです。

 

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。