福祉用具貸与でのモニタリング時期明確化。 ケアマネジメントの観点からちょっと深読み

介護保険の福祉用具については、一部種目での「貸与と販売の選択制の導入」とともに、貸与における「福祉用具専門相談員におけるモニタリング時期の明確化」や「モニタリング記録のケアマネへの提供」などの改革が行われました。ここでは、特に「モニタリング時期の明確化」について掘り下げます。

モニタリング時期はどのように設定する?

本ニュースでも上がっている通り、この福祉用具にかかる改定については、日本介護支援専門員協会でも、厚労省の担当者を招いてのオンラインセミナーが催されました。そこでは、冒頭で述べた「福祉用具専門相談員におけるモニタリング時期の明確化」に関し、ケアマネもモニタリング実施時期に関心を持ち、時期について福祉用具専門相談員とやり取りすることが望ましい」としています。

この「モニタリングの実施時期」ですが、販売・貸与の選択制によって「貸与」を選択した場合には、「利用開始後、少なくとも6か月以内に一度実施すること」が示されていますが、それ以外では時期の明記はありません。となると、福祉用具専門相談員側とケアマネ側のそれぞれの知見にもとづいて時期を定めることになりますが、その他の職種との情報共有も大きなカギとなります。

たとえば、利用者の障害の特徴や疾病の予後等によって、主治医やリハビリ専門職からの意見を参照しながらモニタリングのタイミングを図ることも必要でしょう。また、利用者が使う介護サービスで、自立支援に向けた目標時期が設定されている場合、その時期とのすり合わせも考慮しなければなりません。

利用者の疾病等による状態変化との兼ね合い

上記のうち、主治医やリハビリ専門職からの意見参照という点で頭に浮かぶのは、今年8月に改定された「介護保険における福祉用具の選定の判断基準」です。

ご存じのとおり、主な改定点の中には、「医師・リハビリ専門職等に意見を求めることが望ましい例」が示されています。たとえば、「進行性疾患(パーキンソン病、脊髄小脳変性症など)により、状態の変化や悪化が起こりやすい場合」など、時間経過との兼ね合いが課題になっているケースもあります。

また、ターミナル期における状態変化なども見すえなければなりません。一例をあげれば、がん末期と心不全の末期では、予測される利用者の状態の推移は変わってきます。福祉用具モニタリングのタイミングについては、当然ながら、予測される状態変化を把握したうえで設定することが必要になります。

注意したいのは、こうした利用者の状態変化においては、先述した「利用者が使う介護サービス」の進ちょくも絡んでくることです。

多職種とのすり合わせ機会がますます重要に

リハビリや機能訓練の具体的な支援計画では、日常生活における福祉用具の使用になじむ中で、それによって「自分でできる・している生活」の範囲の拡大が図られることがあります。その進ちょく自体、モニタリング時期の設定で考慮すべきポイントですが、ここに先の「利用者の状態変化の特性」が絡んでくると、タイミングの取り方について複合的な要素が絡むことになります。

この点を頭に入れた場合、モニタリング時期の設定について、福祉用具専門相談員とケアマネの間でのやり取りもさることながら、やはり多職種が集まるサ担会議の場を確認機会とすることも必要になるでしょう。

もちろん、他サービスにおいては、タイミング的に個別サービス計画等が立案されていない状況もあり、「どの時点で何を確認するか」をすり合わせるのは難しいかもしれません。それでも、こうした時間経過における「見立て」を多職種ですり合わせることは、今後もますます求められる実務となると思われます。

「利用者の変化」が読みにくい時代の課題

こうして見ると、福祉用具貸与におけるモニタリング時期の設定は、時間経過における利用者の状態像やニーズの変化にかかる多職種連携の強化という狙いが垣間見えます。福祉用具貸与という1つのサービスにとどまらず、ケアマネジメントのあり方全体にかかわるという認識が必要になるわけです。

ケアマネジメントでは、利用者の状態とともに本人や家族の意向・ニーズも変化する可能性を常に見すえ、「次にどうなっていくか」という途切れない仮説の積み重ねも基本の1つです。特に被保険者の高齢化で、「一歩先の状況」が大きく変化しやすい時代には、この「変化」にかかる思考を常に動かしつつ、多職種との情報共有を含めたモニタリングにのぞめるかどうかがさらに問われるでしょう。

この課題への対応を「福祉用具貸与」という切り口で強化するというのは、言うまでもなく財務省等が「福祉用具貸与だけのケアプラン」を問題視している状況が背景にあると考えられます。多くのケアマネは、たとえ福祉用具貸与だけのプランでも、先のような思考は常に動かしているはずですが、財務省等の立場では依然として懐疑的です。

厚労省としては、この懐疑論へのアドバンテージとして、今回の「福祉用具貸与におけるモニタリング時期の明確化」といった施策を打ち出してきたという見方もできそうです。となれば、2027年度改定では、さらに厳格な取組みが規定される可能性もあります。ケアマネとして注意したいポイントの1つです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。