補正予算での「認知症」関連事業に注目。 ケアマネ実務等に影響をおよぼす内容も

2024年度補正予算が衆議院で可決され、審議の場は参議院に移りました。ほぼ同時期に、政府が「認知症施策推進基本計画」を閣議決定しています。今回の補正予算で、この認知症施策にかかる基本計画はどのように反映されているのかについてスポットを当てます。

補正予算における認知症関連の3つの柱

今回の補正予算で、認知症にかかる柱は3つあります。(1)共生社会の実現を推進するための認知症基本法にもとづく都道府県・市町村の認知症施策推進計画の策定支援事業(1.3億円)、(2)認知症政策研究事業(1.6億円)、(3)大阪・関西万博における認知症に関する情報発信事業(4,4千万円)という具合です。

いずれも、当初は2025年度予算の概算要求に示されたものであり、2024年度補正予算の編成に際して前倒しとなった格好です。また、(1)、(2)に関しては、2023年度の補正予算にも含まれていて、認知症施策推進基本計画の閣議決定前からスタートしている施策でもあります。これらの施策に、今回の補正予算で上積みを図るという位置づけです。

各施策の具体像は、以下のようになります。(1)については、その名の通り、自治体による認知症施策推進基本計画の策定準備にかかる経費を補助するというもの。(2)は、認知症の早期発見から診断後支援を含む早期介入までの支援モデルの構築、および自治体による実証的な研究推進への補助となります。(3)は、2025年4月から開催される大阪・関西万博において、我が国の認知症に関する取組みの発信にかかる展示物整備等を補助するものです。

認知症施策推進基本計画を遂行する「土台」

この3つの柱を見て、介護現場としては、やや「足りない感」が生じるかもしれません。

先に閣議決定された認知症施策推進基本計画では、介護現場における認知症の人の意思決定支援の強化や認知症BPSDに対する対応力向上など、さまざまな目標がかかげられています。本補正予算で、介護人材確保等にかかる事業も示されてはいますが、先の基本計画にのっとった介護現場の取組みにも集中的な予算投与がもっと必要なのではないか──そんな疑問も浮かんできます。

たとえば、2024年度改定で誕生した認知症チームケア推進体制加算などは、取組みのための体制構築(チームの形成・運営、ワークシート活用のための研修など)に向けて、介護報酬だけでなく土台となる費用のねん出も必要でしょう。その部分を、公費による事業で賄えないかというわけです。

土台が整わなければ、加算算定も資力に余裕のある大規模施設等のみとなりがちです。それによって算定率が低迷してしまえば、基本計画にのっとった介護現場のインセンティブの底上げもかなわなくなります。

下支えがぜい弱だとケアマネ負担の増大も

ケアマネの関与も重要ポイントとなる意思決定支援も、ガイドラインの早期改定も含め、現場での指導者育成などの土台づくりへの集中的な予算投入も望まれます。こうした下支えがぜい弱なまま、仮に2027年度改定で「認知症の人の意思決定支援」にかかる運営基準等だけを強化しても、現場のケアマネ等の負担感だけが今まで以上に高まりかねません。

気になるのは、今予算案を見る限り、「土台」がぜい弱な一方で、その上に建てる「家」の部分だけが膨らみかねないことです。そのあたりは、冒頭(2)の「認知症政策研究事業」の研究スキームでもうかがうことができます。

そのスキームとは、たとえば以下のとおりです。A.地域住民に対し、自治体から認知症診断のためのスクリーニング検査の(DMなどによる)呼びかけを行なう。B.健診会場やweb等でスクリーニング検査を実施する。C.結果を開示しつつ、認知機能低下がみられる人に対しては受診勧奨を行なう(受診は保険診療などで実施)。D.受診した人の生活状況等についての追跡調査を行なうという具合です。

認知症施策は介護現場との協働を常に視野に

上記のスキームは、自治体によってはすでに進んでいるケースも見られます。その際、利用者やその家族がスクリーニング検査を受け、受診勧奨を受けたとします。ここで、(セカンドオピニオン的な立場で)ケアマネに対して「受診した方がいいのかどうか」という相談が寄せられる可能性もあるでしょう。

ケアマネとしては、認知症の早期発見・介入の重要性は分かっているとしても、本人・家族の「自分は認知症なのかもしれない」という不安に寄り添わないと、その後の生活意欲・意向に影響を与えることもあります。

また、上記D.の追跡調査ですが、ここではウェアラブル端末等の活用が想定されています。ウェアラブル端末とは、腕時計型など身体の一部に装着するデバイスのこと。この装着により、本人の生活動作やバイタル、睡眠時間などが記録され、そのデータを認知症の予防・進行にかかる実証研究に活用します。

今後、先の「自治体によるスクリーニング調査の呼びかけ」からスタートするスキームが稼働すれば、より多くの追跡調査も行われるでしょう。となれば、介護現場とも調査情報の共有を図りつつ、日常のケアにも活かすという発想も望まれます。これも事業遂行の「土台」と見るなら、介護分野に向けた相応の予算措置を図ることも不可欠です。

認知症にかかるあらゆる事業は、介護現場との協働を視野に入れてこそ、実効性を発揮できるものである点を忘れてはなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。