有料ホームの紹介手数料問題。 背景にある構造への対処で必要なのは…

入居者の「囲い込み」への影響も指摘されるのが、有料老人ホームの紹介事業における高額な紹介手数料の問題です。厚労省の「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方検討会」でも対応策が協議され、財務省の審議会でも規制等の検討を求めています。

社会保障費の適正化をうたう国の重大関心に

焦点となっているのは、入居希望者に有料老人ホーム等を紹介する事業者(紹介事業者)に対して、ホーム運営事業者から支払われる紹介手数料の設定方法です。たとえば、その設定に際して、入居希望者の要介護度や医療の必要度により、家賃や管理費などに応じた平均的な紹介手数料よりも極めて高額な設定がなされているというものです。

入居者の要介護度が高かったり、末期がんや難病によって高度な医療が要される場合、多額の介護・医療の費用が発生します。仮にホーム運営事業者が、同一法人内で社会保険による介護・医療を提供しているケースでは、法人が高額な報酬を得るしくみとなります。

紹介事業者がそこに目を付け、高額報酬が発生する入居者を紹介すれば、高額の紹介手数料を得られるしくみとする──こうしたビジネスモデルが成立することになります。

これが横行すると、国民が負担する社会保険料や税金でまかなわれる介護・医療費によって、紹介業者が儲かることになります。社会保障費費の適正化をうたう国としても、無視できない問題となるわけです。

入居者にもさまざまな弊害がおよぶ可能性

このビジネスモデルでは、直接的には、入居者の負担が増えるわけではありません。しかし間接的には、入居者にもさまざまな弊害を生じさせる土壌につながります。
たとえば、ホーム運営側が高額の手数料を支払ってでも、先のような紹介事業者のビジネスモデルに「乗る」ということは、「自法人も儲かる」という狙いがあってこそです。そこでは、入居者に自法人の介護・医療サービスを使ってもらうことが前提となります。

結果として、自法人のサービス利用を強要したり、(高額な紹介料に見合うように)過剰なサービスを提供するといった、いわゆる「囲い込み」につながる構造が生じます。

入居者に多様な不利益をもたらす「囲い込み」については、その防止に向け、報酬体系のあり方なども含めて今後は議論となるでしょう。一方で、今回の紹介事業者による不適切なビジネスモデルに対しても、何らかの規制を定める動きも要されることになります。

業界団体や国の動きは慌ただしくなったが…

ちなみに、今回の紹介手数料の問題が大きく取り上げられ、厚労省の動きも慌ただしくなっています。まず昨年11月、高齢者住まい事業者団体連合会(以下、高住連)に、「高齢者住まい紹介事業者届出公表制度」における行動指針の速やかな見直しを要請しました。

高住連は、全国有料老人ホーム協会、全国介護付きホーム協会、高齢者住宅協会(2019年にサービス付き高齢者向け住宅事業者協会と合流)からなる連合会です。その高住連は、紹介事業者の質の向上を目的として、2022年に先の届出公表制度を創設しました。

同制度では、紹介事業者からの届出により、代表者や住所などの基本情報とともに、相談員数の数やその相談員が高住連の監修する基礎講座を受けている割合がネット上で公表されるしくみです。届出数は、2025年4月時点で625法人にのぼります。

入居検討者や利用者から相談を受けたケアマネとしては、入居に向けた紹介事業者を探すうえで公表情報を参考にすることになります。ただし、掲載されている紹介事業者が、紹介手数料を適切に設定しているなど、一定の倫理が確保されていなければなりません。

これを実現するため、厚労省として先に述べた行動指針を問題にしたわけです。この厚労省の要請を受けて、高住連は届出時の行動指針および遵守項目を改定しました。

利用者の選択権を明確化する法律も必要か

改定の中には、手数料の金額の定めとして、高い要介護度や末期がん、難病などにかかる高額な社会保障費をあてにしたとみなされる金額設定は「厳につつしむものとする」と言う項目も含められています。

また、厚労省側も昨年12月に、自治体による有料老人ホームの指導指針を改定しました。その中にも上記の行動指針にある「手数料設定のあり方」が含まれています。このように業界団体、および国の動きは進んでいますが、これだけで問題は解決するでしょうか。

高齢化によって、有料老人ホームなど「高齢者向け住まい」のニーズは急拡大し、今後も増え続けることは確実です。ニーズのすそ野が広がれば、そこに生じるマーケット目立ての事業参入も拡大します。過渡期には、倫理を無視した悪質な事業者も増えるでしょう。

こうした状況に対処するには、紹介業者の許認可制なども視野に入れつつ、ホーム運営側の規制強化の議論も進みそうです。そして、もう1つ重要なのは、「囲い込み」を防ぐための入居者の権利強化を図ることです。

たとえば、介護・医療を受ける人々の「選択権保障」を明確化した、介護・医療利用者権利法などの制定も必要でしょう。あらゆる消費問題に共通することですが、構造的な問題への対処には、エンドユーザーの意思決定の尊重という視点が、常に欠かせません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。