
2024年度の介護労働実態調査の結果には、首を傾げるケアマネもいるかもしれません。「ケアマネの採用率」が対前年度比で3.5ポイント超上昇し、増減率も介護職員+ホームヘルパーの1.9を大きく上回る3.6となったからです。ケアマネ不足が指摘されて久しいですが、この状況は何を意味するのでしょうか。
ケアマネ従事者は減っているのに採用率上昇
ご存じの通り、ケアマネの実務研修受講試験の合格者は、2018年度の受験資格見直しで急減しました。その後、若干持ち直してはいるものの、ピーク時の半分にも満たない状況です。また、従事者数も、2020年からのわずか2年間で5000人近く減っています。
そうした中、2024年度改定でケアマネの処遇改善が見送られたにもかかわらず、今調査で採用率が大きく伸びたのはなぜでしょうか。
まず注意したいのは、ケアマネ(あくまで介護労働実態調査の対象範囲ですが)の平均年齢は上昇の一途にあることです。2022年度からの推移でみると、53.0歳⇒53.6歳⇒54.3歳という具合です。「採用率が伸びている」となれば、「若年世代を中心に新たにケアマネとなった人が参入している」と考えがちです。しかし、先の実務試験合格者数の低迷も含めて、どうもそうした状況ではないようです。
そうなると、「経験者の(転職による)中途採用が増えた」という方が実像に近いかもしれません。仮に「子育て等でいったん現場を離れたケアマネが戻った」というのでも業界的に朗報ですが、果たしてそうでしょうか。
事業所は減少。採用率を上げたのは転職?
ここで別のデータに目を移してみます。8月4日付の本ニュースで、介護給付費実態統計で明らかになった「居宅介護支援事業所の減少」について取り上げています。2018年度のピークから現在に至るまで、約10%(4000件超)の事業所が「なくなって」います。
倒産等による閉鎖のほか、吸収・合併などによる大規模化移行など、さまざまな事情が考えられます。その場合、所属しているケアマネはどうなるでしょうか。閉鎖はもちろん、吸収・合併でも「職場風土が合わない」などの理由で退職に至るケースもあるでしょう。
そうしたケアマネは、「(一定の転職活動期間も含めて)新たな職場に移る」という可能性があります。つまり、そうしたケアマネの転職動向が、今回の「採用率の上昇」につながっているという仮説が浮かぶわけです。
ニーズ拡大を受けた大規模事業所の動き
もっとも、「事業所数は減っているわけで、居宅介護支援全体が縮小していれば、簡単には転職⇒採用には至らないのではないか」と考えるかもしれません。そこで確認したいのが、居宅介護支援にかかる受給者の実数(名寄せをした場合の受給者数)です。
年間の最新データは2023年度のものですが、それによれば対前年度比で居宅介護支援の実受給者数は6万2500人増となっています。これは訪問介護や通所介護などの増加数を大きく上回っています。これらの居宅サービスを調整するのが居宅介護支援ですから当然とはいえ、先に述べた「事業所数減」からすれば違和感のある数字かもしれません。
いずれにしても、事業所数は減っても居宅介護支援のニーズは拡大し、それに応じることで市場も大きくなっていることになります。となれば、大規模な法人が拡大ニーズに対応するために、ケアマネの中途採用に力を入れ始めたという状況が想像できるでしょう。
また、「大規模事業所が小規模事業所からケアマネを引き抜く」というケースを見聞きすることがあります。そうした「引き抜き」ケースは昔からありますが、昨今見られるのは「引き抜かれた事業所」がケアマネ不足で立ち行かなくなって閉鎖に陥るケースです。
その場合、問題は閉鎖事業者が担当していた利用者です。担当していた利用者も、転職したケアマネと一緒に「大規模事業所へ移る」というケースも増えている可能性があります。
「ケアマネと一緒に利用者も動く」時代?
こうして見ると、今回の採用率上昇の背景には「居宅介護支援事業の再編」があると考えられます。ケアマネが特定の事業所へと移り、それに沿って利用者も移行する──この流れが進行しているのではないでしょうか。
そうなると、気になるのは「転職したケアマネの働き方」と「移行した利用者の状況」です。たとえば、移行した利用者の担当事業者が遠方にある場合、サテライト型の事業所を設けないと、ケアマネの訪問等にかかる労力が増大します。オンラインモニタリングなどを実施するとしても限界があるでしょう。
このあたりの実態がどうなっているか、利用者の不都合やケアマネの負担増が生じている可能性はないのか──などが気になります。
今までもそうですが、毎年度の介護労働実態調査は、その時々の介護保険改革の議論において土台の資料として取り上げられています。たとえば、今回の「ケアマネの採用率が伸びている」という部分だけをもって、「ケアマネ不足が解消されつつある」といった見解に誘導されるとすれば、大きな誤りでしょう。
今回のデータが示す背景には何があるのか。そこにどのような問題が潜んでいる可能性があるのか。単一のデータを取り上げるだけでなく、現場で起こっている状況を丹念にヒアリングしつつ、多角的な分析が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。