主任ケアマネの位置づけ明確化の行方。 注意したいのは、他のケアマネ施策との関連

介護保険部会で、主任ケアマネの法令上の位置づけを明確化する案が示されました。現状の主任ケアマネが、事務的な管理業務に時間をとられ、現場のケアマネ指導等が十分にできていない等の指摘を受けたものです。具体的にどのようなものになるのでしょうか。

報酬上での主任ケアマネの配置への評価

現状、主任ケアマネの業務について、法令上の位置づけはありません。ただし、基準・報酬上では、主任ケアマネの配置を基準・要件で明記しているケースはあります。

たとえば居宅介護支援においては、2021年4月以降、新たに管理者に就任する者(管理者交代のケースも含む)は、主任ケアマネであることが必要です。一方、同4月以前から管理者に就任している者については、2027年3月末までの経過措置が延長されています。

加えて、特定事業所加算の全区分では、もっぱら指定居宅介護支援の提供にあたる常勤の主任ケアマネの配置が要件となっています(Iでは2名以上)。なお、2024年度改定では、総合相談援助の委託を受けている場合には「その業務との兼務が可能」となりました。

このように、基本報酬や加算では「主任ケアマネの配置」を評価するしくみはあります。ただし、その「職責」となった場合、「管理者であること」や「ケアマネジメントにかかわること」といった大枠はあるものの、具体的に「主任ケアマネとして何をするのか」が明確に評価されているわけではありません。

「助言・指導」のあり方を明確にする?

これまで厚労省が「主任ケアマネの役割」としてきたものは、主任介護支援専門員研修の実施要綱の「研修目的」の中にうかがうことができます。

内容を整理すると、
A.多様なサービス機関との連絡調整
B.他のケアマネに対する助言・指導
C.地域包括ケアシステムの構築に向けた「地域づくり」を実践すること
──となっています。

A.、B.は、居宅介護支援事業所における通常のケアマネジメントや組織上の運営(先輩が後輩を指導するなど)のあり方として、主任以外のケアマネも担うことはあるでしょう。となれば、この条項をそのまま法令化しても、現場として「それが本当に主任ケアマネの役割なのか」という疑問が浮上しがちです。

ありうるとすれば、B.について、「主任ケアマネなり」の助言・指導のあり方を明確化すう規定を設けることでしょう。たとえば、助言・指導に関して、「適切なケアマネジメント手法にのっとった手順を示す」や、先だって示された「ケアプラン点検項目をもとにセルフチェック」を実践化するといった具合です。

シャドウワーク対策と「地域づくり」の関係

問題はC.です。これは、一見包括における主任ケアマネを想定していると思われます。ただし、厚労省が示している概念図では、居宅介護支援事業所の主任ケアマネも、「地域ケア会議への出席」を通じた「地域のネットワーク構築」の中に組み込んでいます。

地域ケア会議といえば、ケアマネのいわゆるシャドウワークについて、地域課題として議論する場(協議体)に位置づけることも提案されています。法定外業務(シャドウワーク)の受け皿となる地域資源の開発、その資源へのつなぎなどを地域ケア会議が担うとなれば、その地域ケア会議に出席する(居宅介護事業所の)主任ケアマネにも「地域づくり」を担う責務が生じることになります。

C.の法令化に向け、上記の「新たな地域ケア会議のあり方」が加わるとします。そうなると、これまでの「地域ケア会議の出席」の意味合いも変わる可能性があります。ケアマネの「シャドウワーク問題等の解決」に向けて、すべての主任ケアマネが地域ケア会議を通じた「地域づくり」にかかわることが法令上で示されることになるかもしれません。

現状の施策推進を主任ケアマネが担う流れ?

注意したいのは、「シャドウワーク問題等の解決」というのは、いわばケアマネの業務環境の改善(負担軽減)にあたるという点です。この負担軽減策の範囲を広げると、厚労省が強調する方策として、「ケアプランデータ連携システム等のICTの活用による効率化を一層推進すること」などがあげられています。

シャドウワークに限らず、ケアマネの負担軽減全体を推進するとなった場合、それら軽減策全体を推進する立場として主任ケアマネが位置づけられることはないでしょうか。

たとえば、先のB.の助言・指導の内容の明確化の一例として、「適切なケアマネジメント手法にのっとった手順」等の話をしました。ここに「業務負担軽減のためのICT(ケアプランデータ連携システム)の有効活用に向けた指導」、さらに「地域ケア会議との連携を通じたシャドウワーク負担軽減のための地域づくりへのかかわり」が加わるという具合です。

やや無理やり感があるかもしれません。しかし、主任ケアマネの職責法令化に向けては、いずれにしても厚労省が進める施策とのマッチングが視野に入る可能性は高いでしょう。

どのような形になるにせよ、現場としては、報酬上のインセンティブを求める声が高まるのは必然です。予算の上乗せが生じる分、厚労省としても、現状で打ち出している施策の包括的な推進を主任ケアマネに担わせる流れも生じがちです。それがまた、現場の実情と乖離するという悪循環を生み出さないか。今後の議論で特に注意したいポイントです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。