
2025年度補正予算による「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善事業」に関して、厚労省より実施要綱が示されました。ケアマネにとって気になるのは、月あたり1万円の賃上げに相当する「1階部分」の要件でしょう。要件の詳細から何が見えてくるでしょうか。
処遇改善加算IVに準じた要件の他に…
今回の「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善事業」による補助額は、2025年12月時点でのサービス提供による総報酬額をベースに算出します。計算に際して乗される交付率は、居宅介護支援の場合で15.0%です。
この「1階部分」にかかる要件ですが、当初は既存の処遇改善加算IVに準じたものとされていました。今回示された要綱では、これらの他に、「基準月において生産性向上や協働化にかかる取組みを行なっている場合」が要件に加わりました。事業所としては、どちらかの要件を満たせばOKとなります。
ちなみに、この新たに加わった選択要件は、2026年6月から実施される臨時の期中改定に向けて示された「特例要件」に該当します。
2026年度の期中改定にも適用の「特例要件」
この「特例要件」の内容を確認しましょう。
1つは、ケアプランデータ連携システムに加入していること。この場合。基準月(2025年12月)に加入していなくても、「申請時に加入している」、あるいは「加入を誓約する」というパターンでもOKとしています。
もう1つは、協働化にかかる取組みとして、事業所の所属する法人が「社会福祉連携推進法人」に参加していることです。ご存じの通り、社会福祉連携推進法人では、複数の社会福祉法人等における人材確保・研修等の業務や事務処理代行などを協働で手がけます。
また、この社会福祉連携推進法人については、不足する地域サービス提供体制の確保に向けて、事業の幅を広げる(第二種社会福祉事業等を実施可能とする)などの見直しが図られる予定です。ただし、営利法人等による居宅介護支援事業にとっては、要件を満たすためのハードルはまだまだ高いでしょう。
そうなると、やはり前者の「ケアプランデータ連携システム(以下、連携システム)への加入(加入誓約)」が焦点となりそうです。
この連携システムですが、2025年6月より1年間のフリーパスキャンペーン(年間21,000円のライセンス料が無料)が実施されています。しかしながら、同キャンペーンがスタートした後も、居宅サービス全体で1割(8月時点)と普及率は伸び悩んでいます。
利用率の伸び悩みには、たとえば「すでに別システムでの連携体制が確立しているので、導入する必要はない」といった背景もあるでしょう。もちろん、処遇改善の補助金(その後の加算)の取得に向けて「実際に利用するか否かにかかわらず、とにかく加入しておく」と考える事業所も多いかもしれません。
連携システム活用に際しての「ただし書き」
もっとも、「活用しないままで生産性向上につながるのか」という疑問も浮かびがちで、施策の実効性が問われかねません。そこで…というわけではないでしょうが、今補助金でのケアプランデータ連携システムにかかる要件には、現場の実情に少しでも近づけようという「ただし書き」が付されています。
それが「ケアプランデータ連携システムと同等の機能とセキュリティを有するシステムとして、厚労省が認めたものを含む」という内容です。現在、厚労省では「居宅介護支援費にかかるシステム評価検討会」が随時開催されています。あくまで疑義解釈待ちですが、検討会で評価されたシステムを使っている場合でも「要件を満たす」と解釈できそうです。
上記の「システム評価検討会」は、厚労省が進めるAPI連携(異なるシステムを自動で連携させるしくみ)が実現するまでの間の類似システムの取扱いを審査するものです。
本来の目的は、居宅介護支援費IIの算定要件における「類似システム」対応ですが、先に述べたようにケアマネの処遇改善施策の要件も視野に入ったと見ていいでしょう。
事業所のシステム事情による不平等感も!?
ちなみに、企業の知的財産等が開示されるため審査は「非公開」となっていますが、これまで3社のシステムが、「連携システムと同等の機能と同等の機能とセキュリティを有するシステム」として認められています。今後も審査は加速する可能性があるでしょう。
こうして「類似システム」が、厚労省によって続々と認められることになるとします。そうなれば、すでにそのシステムを活用している事業所は、先の補助金および期中改定による処遇改善加算を「ほぼ無条件」で取得できることになります。これは大きな一歩です。
ただし、「使っているシステムが厚労省の認証を受けているか否か」という、事業所努力とは別の要素で要件ハードルに格差が生じるとなれば、不平等感が高まりかねません。
また、現状では「1階部分」のみゆえに、今後は業界内でも介護職員と同等の「上乗せ」を求める声は高まることが予想されます。
この上乗せについて、「特例要件」と既存加算IVに準じた要件(あるいは「業務の棚卸し」などの生産性向上の取組み要件)がダブルで必須化されることも考えられます。
となれば、「連携システムにだけ注目しておけばいい」というわけにはいきません。現場としては、現場の業務改革をめぐって先々まで見すえたビジョンが必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。