
2027年度の介護報酬改定に向け、基礎資料となる介護事業経営実態調査が行われます。その協力依頼を求める通知も、厚労省から出されました。ただし、有効回答率が毎回5割を切るといった状況は、調査の信頼性を揺るがしかねません。現場の実情を真に反映できる調査となるのか、強く問われています。
経営へのさまざまな影響要因をどう考慮?
今回の実態調査は、今年5月中旬頃から調査票が届き始め、7月7日までが回答期間となっています。その結果は今年10月頃に公表され、これをもってサービスごとの基本報酬の設定などが検討されることになります。
2027年度の介護報酬にきちんと反映させるためには、現場実態を精緻に把握できる質問の設定が必要です。現場の経営実態は、その時々のサービス提供のあり方に左右されます。それらを質問項目の設定で、いかに考慮できるかが問われることになります。
たとえば、施設であれば物価上昇下での食事提供のあり方。居宅系であれば、高齢者向け住まいに入居する利用者と、地域に点在する利用者を対象とするケースで、訪問・送迎の負担が変わってくることです。こうした実態をいかに把握できるかがポイントです。
また、現在は物価上昇や他産業との賃金格差への対処として、公費によるさまざまな補助金が支給されています。これらを切り分けたうえで収入把握を行なわないと、補助金等の継続状況によって経営状況が不安定になることもあり、実態把握が難しくなりがちです。
今回の実態調査での項目見直しのポイント
そこで、すでに公表されている2026年度の概況調査および今回の実態調査では、調査に際し以下の項目見直しが行われました。
- (1)施設系サービスにおいて、食費に計上される食事提供回数(おやつや検食用を除く)を把握するための調査項目を追加したこと。
- (2)概況調査では、訪問系サービスについて、訪問先の状況(高齢者向け住まいの割合など)や移動手段・時間などを把握する項目が追加されました。加えて今回の実態調査では、高齢者向け住まい等にかかる訪問の延べ回数も把握できる項目に。さらに、通所系においても、高齢者向け住まいの入居者へのサービス提供や送迎時間などが把握できるようにしました。
- (3)介護テクノロジー(見守り機器等)に関しては、概況調査で導入状況や保守・点検にかかる総費用を把握する項目が追加されました。今実態調査では、この継続とともに、保守・点検等のランニングコストの詳細把握に向け、機器ごとの費用を記す項目も追加します。
- (4)各種補助金(介護保険事業所補助金)について、その収入金額の記載項目を追加したこと。これにより、補助金の効果も踏まえた分析も可能になるようにしています。
項目の精緻化が進むと回答負担も増しがち…
このように、現場の経営実態をち密に把握できるような改定がほどこされています。ただし、こうした項目の精緻化が進めば、皮肉なことに、調査に回答するための現場負担も増える可能性があります。特に日々の実務に追われがちな小規模事業所には、調査に協力するためのハードルが高まりやすいでしょう。
そうなると、全体の有効回答率はもとより、小規模事業所ほど回答率が下がる懸念がつきまといます。この点が解消されないと、特に経営状況の厳しい事業者層ほど、実態が調査に反映されにくくなる恐れも生じます。
もちろん、厚労省も回答の手間を軽減するためのさまざまな方策を打ち出しています。たとえば、建物の状況や面積等について、回答が同一事業所・施設である場合は調査票にプレプリントしておくこと。回答期限を延伸したオンライン調査を推進することなど。
また、法人本部への一括送付を通じ、「本部の関与」によって回収率や記載の正確性を向上させる取組みも行っています。
いずれは公費によるサポート事業なども?
こうした取組みで、全体の有効回答率は多少上げられるかもしれません。ただし、先に述べた小規模事業所などの経営実態の把握がどこまで進むかとなれば、十分な切り札とは言いにくいのが実情です。
ちなみに、実態調査を補完するものとして、2025年から運用されている介護事業者の経営情報データベースがあります。これについても、2024年度中の経営情報は収集されたものの、現在は集中的な受付体制の確保等に向けたシステム改修のために運用が停止されています(再開時期は未定)。2024年度改定後の影響などが中長期的に精査できるのは、恐らく2030年度の改定期となりそうです。
そうなると、小規模事業所等の経営情報の把握に向けては、保険者や地域の事業者・職能団体による働きかけや支援が不可欠です。
もっとも、「自分たちの経営実態を国に伝えることが、適切な報酬改定につながる」といくら訴えても、現場を前向きにさせることは難しいかもしれません。前回改定の訪問介護の基本報酬引下げなどが一種のトラウマとなっている中で、経営実態調査に対しての疑心暗鬼は根強いものがあるからです。
いずれは、公費による(調査回答のための)サポーター派遣や人件費補助などの案も浮上するかもしれません。しかし、現状では地域ごとに「どうすれば回答率を高められるか」に向けて知恵を絞ることが求められそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。