ケアマネの処遇改善が必要な理由── そこには「利用者の尊厳保持」の目的も

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先に内閣府が公表した「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」の結果から、ケアマネジメントを進めるうえでも注目したい点を取り上げます(今調査は、実際は60歳以上が対象なので、「高齢者」とするには課題もありますが…)。ポイントは、介護保険の重要な目的の1つ高齢者の尊厳についてです。

人づきあいと孤独・孤立感との間にある「差」

調査結果から取り上げるのは、高齢者の孤独・孤立感についてです。具体的な質問は3つ。(1)「自分には人との付き合いがない」と感じることがあるか、(2)「自分は取り残されている」と感じることがあるか、(3)「自分は他の人たちから孤立している」と感じることがあるか─というものです。

結果は、「時々ある」+「常にある」の合計が、(1)で40%なのに対し、(2)では22.4%、(3)で21.7%となっています。(1)と(2)・(3)では、20ポイント近くの開きがあります。つまり、「人との付き合いがない」を感じる人すべてが、「取り残されている」「孤立している」と感じているわけではないことが浮かびます。

もちろん、同居家族の存在が(2)、(3)を緩和している様子も浮かびます。たとえば、「ひとり暮らし」の人の場合、(1)と比較して(2)、(3)の割合が高まる傾向が見られます。しかし、それでも(1)と(2)・(3)の割合には、依然として10ポイント近くの開きがあります。

尊厳のあり方は、その人の内面にこそ

この3つの質問で浮かぶのは、人の孤独感や孤立感は、主観的・客観的な「人づきあい」の多少で量れるものではないという点です。

孤独感や孤立感というのは、社会における自分の存在を肯定的に評価しにくい時に生じやすくなると言えます。言い換えれば、その肯定的な評価が「尊厳」となるでしょうとなれば、人づきあいの状況だけで「その人の尊厳」を量ることはできないわけです。

相談支援にかかわる職種にとっては、「当たり前」のことかもしれません。しかし、実際の支援の中で、その人の尊厳をどうやって保持し高めていくかとなった場合、「他者との関係性」という「見える」化しやすい部分だけに視点を定めてしまうことはないでしょうか。

大切なのは、対象者が日々「していること・訴えていること」から、その人の「内面」へとスポットを当てることです。たとえば、ケアマネジメント上の「自立支援」においても、その支援策が「その人の内面」にどのような影響を与えているかについて、どれだけ心を配ることができるか──このスキルが、介護保険のもう1つの目的である「尊厳保持」を実現するうえで欠かせないものとなります。

内面類推の精度を上げる取組みは続くが…

もっとも、「その人の内面」がどうなっているかという厳密な評価は、当人しか行なうことができません。ケアマネのような身近な支援者であっても、その人の内面的な「尊厳のあり方」は、当事者の言葉や態度、行動などから類推するほかはありません。

だからこそ、本人の内面に影響を与えると思われる状況(痛みや喪失、満足など)に着目し、それらを改善するかという方向での支援が提案されることになります。そのうえで、その人の訴えや生活態度などがどのように変化したかを検証しつつ、繰り返し見直しを図るという流れがとられます。

この部分にかかる「現場の知見」を積み重ねつつ、利用者の尊厳保持の実現を図ろうというのが、これからのケアマネジメント、ひいては介護保険の主要テーマといえます。

実際、要介護者等へのリハビリにかかる検討会では、主観的幸福感などをアウトカム指標に組み込むことへの検討が続いています。科学的介護においても、LIFEに「尊厳保持に資する取組み」を位置づけた新加算(自立支援促進加算)が誕生しました。

さらに、ケアプラン作成支援のAIについても、現場の知見にかかるデータ集積を進める中で、ゆくゆくは「利用者の尊厳保持」のためにどのような支援が必要なのかを解析するシステムが目指されることになるでしょう。

真の尊厳保持は、やはりケアマネ支援から

利用者の尊厳保持に向けたケアマネジメントの精度を真に高めることができれば、それは介護保険上のケアマネジメントが目指してきた大きな目的の達成に近づきます。

ただし、どんなに「目的に近づける」ためのケアマネジメントの深化が図られたとしても、それはあくまで「目的へと最大限に近づく」ことに過ぎません。先に述べたように、人の尊厳のあり方について、完全に評価できるのは当事者だけだからです。

となれば、たとえばどんなに科学的介護などが進化しても、それに100%依存してしまうことは、かえってケアマネジメントを退化させることになりかねません。必要なのは、「目的に近づくためのツール」は活用しつつも、ケアマネ自身がより高い知見と研さんを目指して歩み続けることに他なりません。

だからこそ、利用者の内面に迫るだけのスキルアップに向けて、ケアマネがエネルギーを維持・確保できるだけのサポートが求められます。つまり、尊厳保持という介護保険の重要テーマの実現には、ケアマネの処遇改善策が必須となるわけです。利用者の尊厳保持とケアマネの処遇改善──やや強引な結びつけかもしれません。しかし、「なぜケアマネの処遇改善が必要か」を議論するうえでは、1つの論点とする価値はあるはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。