
2024年度の介護支援専門員実務研修受講試験(第27回)の合格者が発表され、速報値ですが、合格率は対前年度から11ポイント超上昇し、過去10年で最高を記録しました。その時々で試験の難易度が変化することはあるものの、1年でここまで合格率が変動するのは異例でしょう。揺れ動く施策方針に振り回されるケアマネの状況が象徴されています。
合格後に「何を学ぶべきか」を考える力
今回の合格率急上昇にともない、合格者数は受験資格の変更前の水準に戻りつつあり、2016年度との比較では上回っています。受験資格変更直後(2018年度)との比較では、合格者数は3倍超ですから、厚労省の「ケアマネ数のすそ野を拡大する」という施策意図が反映されていることは明らかでしょう。
もちろん、合格率が急上昇したから、その年に合格したケアマネの実力に疑問符がつくわけではありません。ケアマネにとっては、その後の実務研修等も含めて学ぶべき知識の範囲が(度重なる制度改正もあって)時代とともに広がっています。当然、受験勉強のあり方も数年単位で変わらざるを得ない中、今年度以降の受験に臨むケアマネ志望者の負担が決して軽くなるわけではないでしょう。
加えて、真にケアマネの実力が問われるのは、試験に合格した後です。といっても、実務研修での修得状況だけではありません。大切なのは、実務研修を経て現場に入ってからも、その時々の社会状況や利用者・家族の課題傾向に目を配りつつ、「これから何を重点的に学ぶべきか」を自分なりに洞察し分析する力を身に着けることです。厚労省が示すカリキュラムを追いかけるだけではなく、いかに主体的な学びができるかが問われるわけです。
「学びにかかる気づき」を得るための機会を
そうした合格後の主体性のあり方が、その後のケアマネジメントの質を左右すると言っても過言ではありません。その点を考えれば、その時々の受講試験の合格者数・率だけに目を奪われて試験の難易度を論じるのではなく、合格後のケアマネの主体性を引き出せるような機会の設定が重要になるといえます。
となれば、実務研修を経ての採用後のケアマネに対して、主体的な「学びにかかる気づき」を得られるだけのフィールドワークの機会を、それぞれの事業者がどこまで与えられるかが問われることになります。
たとえば、同行訪問などによる十分なOJTの機会確保はもちろん、地域の連絡会等が主催する研修や多職種による合同研修などへの参加意向を聞き取りつつ、その研修費用も事業者としてきちんと拠出できるかどうか。こうした、ケアマネ一人ひとりの意向に沿った育成に焦点を当てることが、事業所・業界団体のますます大きな責務となるでしょう。
自分の成長を実感できることは復職にも影響
こうした点を考えたとき、居宅介護支援にかかる方策として何が必要になるでしょうか。
今回のように(意図的かどうかは別として)合格率を高めたり、実務経験年数の緩和などの受験要件見直しによって「ケアマネ人材のすそ野を広げる」という方策自体は、決して間違ってはいません。問題は、その後のケアマネの育成環境の改善が伴っていなければ、意味はなさないということです。
自身の成長を実感できない環境では、長期にわたる就業意欲を維持することができません。また、いったんケアマネ業務から離れた後の「復職」の動機も高まりにくくなります。
ちなみに、ケアマネジメントにかかる諸課題検討会では、「潜在ケアマネの復職等への支援」も重要課題となっています。現状で上がっている対応案は、短時間勤務のような柔軟な働き方や再研修を受けやすい環境整備ですが、やはり「自身の成長を実感できる学びの機会」をいかに充実させることができるについても掘り下げることが欠かせません。
たとえば、貴重なOJT機会となる新任ケアマネへの同行訪問を報酬上で評価するしくみなどが考えられます。さらに踏み込むならば、(ケアマネごとのキャリアプランの作成を前提としたうえで)各ケアマネと事業者との話し合いのもと、外部研修等への参加を「業務時間」と位置づけたうえで、キャリアアップ加算のようなしくみを設けるという具合です。この場合、計画的な研修実施を要件とした特定事業所加算とは別扱いとします。
「学びの機会」への保障は国の責務でもある
それはちょっとやり過ぎでは──と思われるかもしれません。しかし、「ケアマネの定着向上には学びの機会の最重視が必要」という戦略を土台とするならば、これくらいのインパクトは求められるでしょう。ただでさえ、ケアマネはその時々の他法他制度の変遷下おける「シャドウワークの増大」に振り回されてきました。その点を考えれば、主体的な学びの機会の確保は必要不可欠な業務の一環であり、その点をきちんと保障することは、国としての責務と位置づけられるはずです。
こうした報酬上の評価ができれば、研修参加の費用のねん出やその間の補充人員の人件費などにあてることもできるでしょう。保険料増大につながるというのなら、一定期間は公費による補助金とする方法もあります。
懸念されるのは、今回の合格率の上昇で人材のすそ野が広がった場合、就業後のフォロー策への重点化策が弱まることです。2日に諸課題検討会の中間整理案が提示されますが、今回の合格率を経て、インパクトが弱まっていないかどうか注視することが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。