ケアマネジメントに活かすバイステックの7原則その6【自己決定の原則】

この記事では、バイステックの7原則*1の中の「自己決定の原則」について、ケアマネジャーの現場の一場面に沿って解説します。支援者側が「良かれと思って」答えを押し付けるのではなく、利用者自身が自分の生き方や支援を選び、決める権利を最大限尊重する関わりを取り上げ、すぐに取り組める「実践ポイント」もわかりやすくまとめています。

こんな場面に心当たりありませんか?

原則①ビフォーアイコン
独居の利用者が退院するにあたり、本人は「一旦家に帰りたい」と希望している。しかし、ケアマネやご家族から見ると在宅生活はリスクが高いと感じる時。
リスクを回避したい一心で、「自宅だと転んだ時に危ないですよ」「ご家族も安心ですし、一旦施設でリハビリしましょう」と、良かれと思って説得し、援助者側が望む方向へ誘導してしまう。

専門職だからこそ見える先行きやリスクに考慮し、本人のためを思って最適な支援を検討すること自体は間違っていません。

しかし、先回りして結論を決め、誘導・説得することは、利用者の「自分の人生の主でありたい」という願いや自尊心を奪ってしまう可能性があります。結果として、本人の納得感のない生活が、主体性や意欲の低下を招いてしまったとしたら…?

「自己決定の尊重」とは、利用者が自らの人生を自分で選び決める、その選択プロセスを支援すること
私たちの役割は、利用者に代わって最適な答えを決めてあげることではなく、利用者が自分自身で答えを見つけられるように情報を整理し、選択のプロセスを支援することです。

そのためには、十分な判断材料が必要です。 提供すべき情報の中には、選択肢のメリット・デメリットだけでなく、「ケアマネジャーとしてできること」「できないこと」といった支援の限界や、「緊急時や、もし〇〇の状態になった場合はどうしたいか」といった将来予測の観点も合わせて提示し、それらをご本人にしっかりと理解していただくことも重要です。

「自己決定の尊重」の視点で関わるとどう変わる?

バイステックON!
原則①アフターアイコン
1. 意思表示ができる方の場合
まず「お家に帰りたいのですね」と本人の希望(やりたいこと)を真正面から受け止めます。 その上で、専門職としてリスクを隠すのではなく、それぞれの選択肢の長所・短所、生活するために何が必要となるかといった「見立て」を客観的に情報提供し、最終的な決定は本人に委ねます。

2. 認知症などで意思表示が難しい方の場合
「自分で決められないから、支援者が決める」のではありません。この場合、私たちには「代弁者(アドボカシー)」としての役割が求められます。

「代弁者」としての役割には、ご家族から若い頃の話を聞いたり、ご本人の過去の言動や大切にしてきた価値観を想像したりするプロセスがここで活きてきます。

「昔から『畳の上で最期を迎えたい』と話していた」

「人付き合いが苦手で、賑やかな場所を嫌っていた」

こうした情報から、「〇〇さんであれば、今、どう考え、どう感じるだろうか」と本人の意思を推し量り、その人にとっての最善を主張することも、自己決定の尊重の非常に重要な形なのです。

【明日からできる】「自己決定の尊重」を実践するポイント
  • 「教える」「決める」から「引き出す」「支える」へ
    ケアマネは答えを持つ専門家ではなく、利用者が自分の答えを見つけるための「伴走者」である、というスタンスを常に意識しましょう。
  • 判断材料は分かりやすく、具体的に提供する
    「どうしますか?」と丸投げするのではなく、「A案の長所は〇〇、短所は△△です。B案は…」と情報を整理して提示します。その選択に伴うリスクや最悪の事態も正直に伝える誠実さが必要です。
  • 意思表示が困難な方の「その人らしさ」を探求する
    ご本人の言葉だけでなく、ご家族から聞く若い頃のエピソード、趣味、大切にしていた物、昔の口癖など、断片的な情報からその方の価値観や人生観を想像し、記録しましょう。その積み重ねが、いざという時の最善の意思決定支援(アドボカシー)の、確かな根拠となります。

i.care-mane.com

*1:参考文献:Biestek, F. P. (1957) The Casework Relationship. Loyola University Press. ( 『ケースワークの原則[新訳改訂版] 援助関係を形成する技法』(2006) F.P.バイステック 著 尾崎新/福田俊子/原田和幸 訳  誠信書房