
訪問を終えて一人になったときや、長い電話対応のあと。
ふと「あの利用者さんとの関わり方、これで良かったのかな」と思うことはありませんか。
ケアマネジャーとして経験を積んでも、「人と関わる支援」は思うようにいかないことばかり。悩んだり、迷ったりするのは自然なことです。
そんなときに立ち返りたいのが、対人援助職の基本ともいわれる「バイステックの7原則」。
この記事では、ケアマネジャーが現場で直面しやすい場面を例に、7原則をどう活かせるかをわかりやすく紹介します。明日からの支援が、少し軽やかになるヒントをお届けします。
- なぜ、ケアマネに「バイステックの7原則」の知識が必要なのか
- ケアマネのための「バイステックの7原則」記事一覧
- 学びを力に。バイステックの7原則を現場で活かすヒント
- あなたの専門性を守る「揺るぎない軸」を
なぜ、ケアマネに「バイステックの7原則」の知識が必要なのか
「バイステックの7原則」は、1957年にアメリカの社会福祉学者フェリックス・P・バイステックが著書『ケースワークの原則(The Casework Relationship)』*1で提唱した、援助者と利用者のあいだに信頼関係を築くための普遍的な原則です。
提唱からおよそ70年が経った今も、この原則は医療・福祉・教育など、人と関わるあらゆる現場で受け継がれています。
ケアマネジャーの仕事もまた、担当ケースの重度化や家族構成の多様化、ハラスメント対応など、複雑な課題に直面する日々です。
そんな中で「バイステックの7原則」を思い返すことは、専門職としての心構えや立ち位置を確かめるきっかけになります。
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援助の質の向上と信頼性
対人援助の現場では、ケアマネジャーと利用者との関係が、お互いの性格や価値観、「相性」に左右されることもあります。
しかし、専門職としてこの原則に立ち返ることで、個人の感覚や経験に頼りすぎず、安定した質の高い支援を行うことができます。 -
専門職としての自信と安心
明確な判断基準を持つことは、「なんとなく」から脱却する一歩です。
自分の対応に「原則に基づいた根拠」があると確信できれば、迷いが減り、専門職としての自信が自然と育まれます。 -
ケアマネジャー自身の心の健康のために
また、この原則はケアマネジャー自身を守るための“防波堤”にもなります。
利用者の感情に引きずられすぎることで起こる「共感疲労」や「燃え尽き」を防ぎ、適切な心理的距離を保つ手助けになります。
自分の心を守ることが、結果的に安定した支援につながるのです。
ケアマネのための「バイステックの7原則」記事一覧
7つの原則には、それぞれに「支援がちょっとうまくいくヒント」が隠れています。
気になったテーマから、ゆっくり読んでみてください。
個別化の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
利用者を「分類する」のではなく「かけがえのない個人」として捉える原則です。固定観念や類型化(ラベリング)を避け、その人固有の背景や価値観を尊重します。
意図的な感情表出の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
利用者がためらわずに、自由に感情を表現できるよう促す原則です。「こんなこと言ってはいけない」という不安を取り除き、安心して本音を話せる場を作ります。
統制された情緒的関与の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
利用者の感情に共感しつつも、過度に感情移入したり、巻き込まれたりしない原則です。冷静さと客観性を保ち、専門職としての適切な距離感を守ります。
受容の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
利用者の人間としての価値を尊重し、その長所や短所、建設的な面も破壊的な面も含めて、ありのままを受け入れる原則です。その人らしさを、まずはそのまま受け止める姿勢を示します。
非審判的態度の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
利用者の言動や価値観に対し、援助者が「良い・悪い」「正しい・間違い」とジャッジ(審判)しない態度です。利用者が罪悪感なく、自由に自己を語れるようにします。
自己決定の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
自分の人生をどう生きるか、どう選択するかは、利用者自身が決める権利があるという原則です。援助者は選択肢を提示し、利用者の「決める」力を尊重し、意思決定を支援します。
秘密保持の原則
ケアマネのためのバイステックの7原則
援助の過程で得た利用者の個人的な情報は、本人の同意なく他者に漏らしてはならないという原則です。専門職としての信頼関係を築くための大前提となります。
学びを力に。バイステックの7原則を現場で活かすヒント
学んだ知識は、日々意識して使うことで、あなたを支える確かな力になります。
一人で抱え込まず、個人でもチームでも実践できるヒントを紹介します。
個人のスキルアップのために
- 理解度チェックで復習を:今回の学びをより確かなものにするために、「バイステックの7原則ミニテスト」に挑戦してみませんか?
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日々の振り返りメモ: 「今日の関わりでは“受容”を意識できたかな?」など、原則に照らして一言メモを残すだけで、自分の実践を客観的に見直すことができます。
- お守りとして: 時々この記事を読み返してみてください。新人さんにもベテランにも、それぞれの立場で新たな気づきがあるはずです。
「ちゃんと原則に沿った支援ができているな」と感じられたら、それが自信の証です。
チームの力と援助の質を高めるために
- スーパービジョンで活用: 支援の方向性を話し合うとき、「このケースではどの原則を意識するといいだろう?」と問いかけてみましょう。
こうした視点の共有が、バイジー(指導を受ける側)の気づきを促し、利用者本位の支援へと導きます。
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事例検討会や勉強会で: 「自己決定の尊重の視点で、他にできることはあるかな?」など、7原則をテーマに話し合うことで、チーム全体のスキルや共通認識が自然と深まります。
ロールプレイングやミニ勉強会のテーマにもぴったりです。
あなたの専門性を守る「揺るぎない軸」を
日々、利用者やその家族のために尽力されている皆さま、本当にお疲れさまです。
ケアマネジャーの仕事の多くは、報酬には見えにくい、けれど誰よりも大切な「心の関わり」に支えられています。
その“見えにくい努力”こそが、あなたの専門職としての真価です。
バイステックの7原則は、その尊い仕事を支える「揺るぎない心の軸」。
この基本に立ち返り続けることが、利用者の尊厳を守り、そしてあなた自身の専門性という価値を守ることにつながります。
私たち「ケアマネドットコム」は、現場の最前線で奮闘するケアマネジャーの皆さまを、心からリスペクトし、これからも応援し続けます。
*1:参考:F.P.バイステック著『ケースワークの原則[新訳改訂版]援助関係を形成する技法』(誠信書房, 2006)